化学プラントを長年見ていると、歴史の長いプラントほど経験が蓄積されていき、独自の標準化が進みます。もともとの意図としては設計の効率化や安全運転のためなのですが、トラブルが起きたら何か対策を積み増していくうちに、世間一般から外れたその会社でしか通じない標準化ができあがります。
これを担当者として気が付くのは難しいでしょう。レベルが上がっていき、そこに追いついていない他社の方が良くないのだ(だから事故が起こるのだ)、と考えてしまいがち。
ところが、水準の高い標準化のためにコストアップしていくと、コンペで負けるのは実は目に見えています。見えていないのはプラントの中で動いている人たち。
どういう設備の標準化が良くないかを、化学プラントでありがちなものとしてまとめました。
あなたの会社でも、こんな設備仕様書になっていませんか?」
フランジやノズル周りの溶接が手厚い
金属系のタンクや熱交換器(製缶機器)は化学プラントの設備でも設計の自由度が高めです。特に溶接は各社のオリジナリティが出せてしまうもの。
単に金属同士をくっつければ良いと思いきや、それではトラブルが起きるのでいろいろと手を加えてしまいます。
- フランジに補強を入れて溶接数を増やす
- フランジ溶接時に検知穴を付ける
- どんなノズルにも当て板を取って補強する
これらの方法は、すればするほど安全性を高める確率が上がります。過去に何かしらトラブルがあって、これくらいの改善なら大きなコストアップに繋がらないから標準化しようと、積みあがっていきます。
今でももしかしたら、そこまで大きなコストアップにはならないかも知れません。しかし、手間は確実に増えます。費用には見えにくい工数や作業時間の面で、メーカーから嫌がられる可能性があることは、発注者は想像しておかないといけません。
自社でいつどんな大きな問題が起きたかは分かりませんが、そこまでの仕様でなくても製造している会社はいっぱいあります。質の悪い設備は軒並みトラブルを起こしているわけでもありません。質が高い設備でも問題を起こします。
責任を取りたくないから、やれることは全部やっておこうの精神で標準化を高めていきやすいのが、化学プラントの場合はフランジなどの溶接に見えてきます。
無意味な付属品
皆さんの設備でよく分からないけど付けている付属品がありませんか?私の場合だと以下のようなものがあります。
- ネームプレート
- アースピース
- 予備ガスケット
これらの設備は特定の場合には必要です。ですが、全部の設備に対して必要というわけではありません。
設備購入仕様書を標準化しようとしたら、これらの付属品をオプションとして設定したくなるでしょう。ところが、設備を買うたびに設備の種類ごとに付属品を選ぶのが面倒になって、どんな種類の設備でも付属品を付けてしまいかねません。
ボルトナットやネームプレート
小さなポットレベルでもネームプレートを付けようとしたり(配管と同じ扱いでOK)、配管で繋がる小さな設備でアースピースを付けたり(ボルトナットでボンディングは取れる)、開け閉めするわけでなく長年放置されて用途不明になる予備ガスケット。
これらは購入時のコストとしては大したものではないかも知れません。発注の際の仕様確定で時間を要する可能性はあるでしょう。メーカーから見ると、何でこんな小さなオプションに拘るのだろう、と思っているはずです。ユーザーでも、今まで決めた標準から変えると上司に怒られるのが怖いという担当者の方が多いと思いますけどね。
予備ガスケット
予備ガスケットは使わないどころか、負の遺産となってしまいかねません。この遺産も表にはなかなか出てこないので、必要経費くらいに思われるかも知れません。ですが、無駄であることも確か。
特殊設備に対して自社仕様を要求
特殊設備でも長年取引のある会社は、各ユーザーの仕様に合わせた物を作ってくれます。
典型例がグラスライニングやカーボン式熱交換器。ユーザーごとに微妙に違う仕様を緻密に再現してくれます。むしろユーザーの方が自社標準を分かっておらず、「いつもと同じで」と発注してしまいがちです。楽ではありますが、海外など取引がこれまでない場所で対応しようとしたら、一気に問題になります。
メーカー標準品だと安価で納期も速いという売り込みが最近は増えていますが、その差があまり大したものではないのが残念です。品質を落とした結果、交換頻度が増えてしまったら、トータルコストは一気に上がります。労務費が高い日本では、大きな課題です。
過剰な安全設備
タンクに付ける昇降設備、特に手すりやステージは超要注意です。
安全はすべてに優先するので、基準で決まっている以上の物になりがちです。
- 転落する危険があるので、あらゆる場所に手すりを付ける
- 階段は決まった高さ以外の物は採用しない
- ステージはとにかく広く取る
全体バランスを考慮せずに、できるから採用してしまうという流れになりがちです。費用は当然上がりますが、必要だという主張に負けがちです。監査で指摘されたから対応せざるを得ない、というケースも多いです。
結果、コストはどんどん上がっていきますが、安全はすべてに優先するから関係ないと言い張ってしまいます。これはコスト競争力を無くしていきます。かといって対策を取らないと、危険な職場だと思われて人が集まりません。
参考
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最後に
プラント設備の標準化に拘ると、コストアップとや納期アップに繋がります。1つの会社だけを見ていると結構気が付きにくいですが、私自身もいくつか思うところがあります。
競争力を上げるには、他社の設備を見るのが一番いいですね。
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