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プラント建設で新しい思想を安易に取り入れると起こる悲劇

プラント思想 プロジェクト
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プラント建設の話を聞いていると、「建設するからには1つでも新しいことを取り入れないといけない」というエンジニアの偉い人の意見を聞きます。

最近は減ってきましたが、一昔前はこの意見だらけ。

停滞しそうになっているプラント技術を、活性化させる意図があったのだと思います(その真意をちゃんと説明してくれる人はおらず、結論だけしか説明してくれませんでしたが)。

もしくは、対外アピールがしやすいのでしょう。DXがまさにそう。

こうやって何か新しいことを導入すると、導入した人は近視眼的な目線で評価され、実績ができたと満足感も得ます。

ところが、中長期的に運用している人から見ると、はっきり言って良い迷惑。

工場全体を良くしようとしたときには、弊害となります。

どういう弊害が起きるのか紹介します。

なお、今回の新しい思想の前提として、以下の条件があります。

  • 類似プラントが1つ以上存在する
  • 設備だけでなく配管・制御などの思想も含む
  • プラント全体に影響が出るような変更

同じ工場でも、全然別の形態のプラントを建てる場合には、あまり大きな問題にならないです。どんどん新しい技術を入れれば良いでしょう。

オペレータの運転思想がバラバラになる

新しい思想を取り入れてしまうと、オペレータの運転思想がバラバラになります。

2つのプラントで思想が少し違うだけでも、オペレータは戸惑います。

AプラントのオペレータがBプラントの応援をするという場合、即戦力としては期待されず、汎用的な作業にしか最初は割り当てられません。

ポンプの運転・原料の反応器への投入・反応などの操作が入る部分は、思想が変わるだけで操作方法が変わります。

少しの間違いが大きな問題に繋がるので、思想の違いが大事になります。

例えば、ポンプの運転をするのに吐出のバルブを何個どれだけ開けるのか、エアー抜きはどこで行うのか、といったバルブレベルの話でも操作として大きな影響が出ます。

DCSで確認ボタンが入るか入らないか、待機時間をどれだけにするか、という世界でも変わります。

工場で2つのプラントしかなく、その2つが類似の性質を持っていて、お互いに思想が違うというだけでもかなりの意見が飛び交います。プラントの数が多くなると、もはや収拾がつきません。

これらが統一化されておらずに、多少の違いがあっただけでも全体としてどれだけの変更があるのかは、新しく入った人には見えません。そんな不安な状態で重要なオペレーションを任せるわけにはいかない、ということです。

オペレータの思想を統一するのは極めて難しく、極端に言うとその人が居なくなるまで解決しません。極端に言うと20年30年と掛かります。Aプラントの操作はこうだったのに、Bプラントは違って非効率。転職者が前の会社はこうだった~に近い話が山のように発生し、それを止める人がほぼ居ない環境です。これを思うと、安易な思想変更は危険だと思いませんか。

工場の安全設計が統一できない

オペレータの運転操作と同じように、工場の安全設計も統一できません。

簡単な例では、配管内容物の表示内容・通路の表示・(法律以外の)安全表示の看板などです。

少し複雑な例では、通路の幅、手すりの大きさ・高さ、階段の昇降高さ、などです。

これらの何気ない差だけでも、どこかのプラントでヒヤリが起きて水平展開をしようとしたときには、障害となります。

最近はこの水平展開だらけで、思想の違いを整えようとして管理者が多大な時間と労力を掛けたり、多くの投資が発生している例を良く見かけます。

本当は新しいことをしたいのに、思想がバラバラなせいで工場全体としては足止めされてしまう。

安全担当と経理担当が困ることになるでしょう。

1プラントのちょっとした変化が工場全体に響くということを、設計者はちゃんと認識しておきましょう。

修繕費の見積が難しくなる

今までと変わった設備を入れると、修繕費の見積が難しくなることがあります。

イニシャルコストだけを考えて導入する、というのが典型例。

ランニングコストを適正に見積もるといっても、オーバーホールの金額と周期だけを修繕費に設定しているだけだと不味いです。

消耗品として何が必要で、どれだけの期間で交換が必要か、その金額がいくらか、をちゃんと見ておかないといけません。

建設時には「そんなことは後回し。保全の仕事」と切り捨てられやすいです。

これも良くないです。

ベンダーは注文が入っている間は積極的に対応してくれます。物を作って現場に収め試運転をするまでです。そこから先は別の話。

保全が修繕費の見積をするのは、試運転が終わって引き渡しをされてからでしょう。

こうなると遅い。

ベンダーに保全がアクションを掛けても、消極的になっているベンダーはすぐには対応しません。

問題が起きて初めて見積を作ります。

こうなると、工場の修繕費の中長期的な設定ができなくなります。

保全も困るでしょうが、工場の経理も困ります。

新たな設備を導入するならここまで面倒を見るのが設計者の責任だと、今では強く思っています。

参考

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最後に

プラント建設で何か1つでも新しいことを入れるというのは、今ではあまり進めない方が良いと思っています。

導入するからには、その影響範囲を長期的目線で評価しようとする意志と態度が必要です。

導入できなくても、影響範囲をちゃんと評価して結局今のシステムが最適だったと発信できるなら、設計者としてのスキルを疑われることは無いと思います。むしろ、安易な導入によるアピールよりはよっぽど高評価です。

化学プラントの設計・保全・運転などの悩みや疑問・質問などご自由にコメント欄に投稿してください。(コメント欄はこの記事の最下部です。)

*いただいたコメント全て拝見し、真剣に回答させていただきます。

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