DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しいですよね。
叫ばれるというくらいだから、もっと前から考え方が存在していてもずっと動かずに、ようやくDXという名前で動き出すようになるのが日本企業。
そうしてDXを進めていこうとしても、設備保全の分野では進みが非常に遅いです。
化学プラントでは特にそんな感じがします。
その理由がどこにあるかを考えました。
私の身の回りでも、設備保全はDXが本当に進んでいません。停滞しています。
彼らの思考や行動パターンを見て、考えた内容です。
表面的な部分を何とかしようとする
DXを考えるときに表面的な部分しか見ない例がとても多いです。
DXではデジタル技術を使って、何か便利なことができないかを期待しようとします。
パソコン関係など、もともとデジタルで扱っていたものは当然進みが早いのですが、製造業や建設業などアナログ主体の産業では、アナログからデジタルへの変換がとても大変です。
それが分かっているからこそ、設備保全もDXに期待はあまりしていません。
設備保全とDXで結び付けようとすると、以下のようなことがターゲットになります。
- 紙の仕事を電子化したい
- いつでも・どこでも・誰でも見れるようにしたい
このどちらかの目線で、思考が始まっていきます。
①の電子化は、〇〇システムに代表されるものです。
紙に手書きで書くより、後々のことを考えれば便利ですからね。これで何かが変わることを期待してしまいます。
デジタルツールを使っているという最先端感が若手に受けるかも知れませんね。
でも、入力するのに手間が掛かったり、そもそもシステムに登録しても活用する機会がほとんどなかったりします。
紙が悪いから電子化するという部分にだけスコープが当たり、そもそも紙で行っている仕事内容を見てないケースは非常に多いです。
システム化すると、時間・場所・人を選ばずに情報にアクセスできるようになるでしょう。
でもその効果を考えないケースは非常に多いです。
いつでも見れるからそれが有効活用できるという、設備情報はほとんどありません。
どこでも見れるといっても、基本的には工場だけで見れたらOKです。
誰でも見れるといっても、本社の人が情報を見ても工場にとって役経つ形で使うことはほぼありません。
製造や保全が毎日パトロールしないといけなくて、1日でも見ていなかったら大事故が起こる、というならパトロールする人の問題ではなく、業務システムそのものに致命的な欠陥があるはずです。
1日・2日程度現場を見てなくても、普通は問題ありません。問題が顕著化した設備に対して、補修するまでの間はケアを強化したら良いでしょう。
保全という業務の中で、どの作業に時間を掛けていて、それを短縮化するためにどうすれば良いのか?という視点で考えて、たまたまDXが使える。
というアプローチでないと、非常に危ういでしょう。
ポンプの劣化度合いを見たいから、振動による監視システムを設けました。という例は多いですが、劣化度を見たいのはなぜ?というところには不思議と突っ込もうとしないものです。
防爆の規制がキツイ
化学プラントとしては、防爆の理由でDXが進まないことはあります。
正しいのですが、防爆があるからDXが進まない、だからDXを考えなくていい、という論法になってしまいがちです。
この辺りは、多少考える人も居るでしょう。
化学プラントだと、冷凍機に対してなら多少の期待感を持ちます。
でも、冷凍機メーカーとDXの話を積極的にしている人って、どれくらいいるでしょうか?
ようやく最近動き出したという感じだと思います。
それでも、その会社オリジナルのツールとして発展していって、情報の取り出し方やDCSへの取り込み方など、現場が使いやすい形になっていくのは当分先でしょう。
高い
DXで現場にデジタル計器などを設ける場合、とても高価なことが一般的です。
1つの情報をDCSに取り込むまでに100万円くらいしても、おかしくありません。
ポンプ1つ取っても、振動だけで3~6個、温度・電流・圧力なども取り込もうとしたら、それだけで10個くらいになりそうですね。
ポンプだけが対象になるわけでなく、プラントには多くの設備があります。
タンクや配管なども情報を得体かも知れませんね。
それらをすべて、デジタル情報とするには膨大な費用が発生します。
効果が低い
デジタル化をしたとしても、効果が低いのが化学プラントです。
これは、設備1台当たりの金額が少ないから。
例えばポンプをCBMで管理するとして、人が1月に1回測定器で計測しているとしましょう。
その結果、メカニカルシールを3年に1回交換している運用をしているとします。
これをデジタル計器で時々刻々のデータを得たとして、何が変わるでしょうか?
メカニカルシールが3年で交換していたものが4年になった。
せいぜいこれくらいの話です。
数十万円で解決するもののために、その何倍もの金額を投資しますか?
だからこそ、デジタル革新に期待する部分が狭くなります。
- 非防爆の領域
- メンテナンスしようとすると、圧倒的に高い投資が必要で、数年では対応できない設備
- 故障した後、復帰までに時間が掛かり、前もって準備しておきたい設備
こういった特性に限定されていくでしょう。
冷凍機とかプラント建屋そのものとかにしか手を出せないと考えています。
最新の技術でデータを採取するという技術者の興味と、プラントメンテナンスという会社の運営とを混同しないようにしたいものです。
レベル合わせが難しい
設備保全の場合、保全というやるべきことは同じはずなのに、人によってやり方が結構違います。
マニュアル化をしても、その範囲を越えて自分の好き勝手に業務をする人が多いです。
というのも、上司の観測範囲外で仕事ができてしまうから。
他社である協力会社などと直接やり取りをするので、担当者がどういう仕事をしているのか上司も他の担当者も知らないことが多いでしょう。
故障時の判断・修理の進め方・原因の調査・書類の作り方、どれもバラバラです。
表面的に整えることができても、中身は整えられません。
そういう環境で、システムを統一化させようと思っても、必ず反対意見が出ます。
メールで処理すればいいのに、紙で出して印鑑を付くのが絶対だ!みたいなよくある話ですね。(この例だと、強引にメールで統一すれば良いのですが、そうすると紙でしか仕事ができない人はストレスが溜まっていき、仕事の質が落ちていきます。)
DXの前に「無くす」
DXを導入する前に、仕事の本質を考えましょう。
例えば、紙の情報を電子化するDXを考えたとき、そもそも紙の情報が何のために必要か考えましょう。
典型例として、設備のメンテナンス履歴を典型的なフォーマットの台帳に、現場で記入することを考えますよね。
その後、事務所で清書して、関係者に提出します。
この情報が以降の設備保全に活用できるなら、採取しても良いでしょう。
大抵は、問題が無ければ設備保全の結果の情報を見る人は居ません。
問題があった時に、初めて履歴を追うでしょう。
それでも数値データが求められるわけではありません。
単にExcelなどで、結果のサマリーが文章で書いてある程度でも、対応できます。
設備が故障したという分かりやすい事実があるので、過去の履歴を深く考える前に復帰の手順を考えないといけないからです。
設備が故障して、報告書が揃ってないから怒られる、報告書を提出してから復旧を考える、なんて会社があるとしたらマズイでしょう。
だから、清書そのものを無くして、現場で書いたデータを担当者だけが持っていて、上司や関係者には問題なしという結果を返すことは、業務のスリム化となるでしょう。
こういう表面的に綺麗に見えるけど、その裏で多くの労力が掛かっている例は、とても多いと思います。
担当者を信頼しているから可能なことですが、毎回レポートを提出させるのは、担当者を信用していないことになります。システム化して、いろいろな人が監視するという仕組みも、信頼していないから。
製造品質の問題が最近話題になっていますが、品質に影響が出るような隠し事はもちろんNG。
でも設備保全の良否で品質が決まるとは言い切れません。製造している過程で品質を作り込みます。
設備に問題があって品質不良が発覚すれば、その段階で製造をストップして設備対応をし、不良品の処理方法を考えていくことになるでしょう。
担当者を信頼しないシステムを作り、担当者の時間を奪い忙しくなって、結果的に別の場所で手を抜いて、それこそ品質問題になるかも知れません。
業務のどこに力を入れるべきか・どこに手を抜くべきか、を考えることがDXの前に必要だと強く思います。
参考
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最後に
化学プラントの設備保全でDXが進まない理由を考えました。
表面な部分しか見ないというのが最大の竜だと思っています。防爆・高価・費用対効果が低いというのは、その次の要因。
DXの前に仕事の本質を考え、無くせるものを無くしていくというアプローチが最初にあるべきです。
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