蒸留は化学プラントでは一般に使用する化学工学的操作です。
この目的は溶剤のリサイクル。コスト削減だけでなく省エネルギーの視点でも重要です。
機電系エンジニアにとっては、化学工学の話になって関係ないと思われがちですが、省エネルギーというテーマとしては知っておいた方が良いでしょう。
設備投資とも関係してきます。
蒸留でリサイクル
蒸留でリサイクル?
機電系エンジニアなど化学プラントの初心者ならこう感じます。
化学プラントの製造との関係で、蒸留によるリサイクルの仕組みを少し見てみましょう。
反応は例えば、原料Aと原料Bを組み合わせて行います。
これで目的の製品Cを得ますが、必ず不純物Dを得ます。
この反応を行う時に、かなりの確率で溶媒(溶剤)を使います。
例えば原料が粉体だったり、液体でも体積を増やして伝熱性や送液性を上げたりするなど、溶媒を使うニーズは非常に多いです。
反応が無時に終わって出来上がるのは、製品C・不純物D・溶媒Z。
ここから製品Cだけを取り除いたとしても、不純物Dと溶媒Zが残ります。
製品ではないので、処分するというのが1つの発想です。
でもそれだと色々問題が起きるので、蒸留をしましょうという流れですね。
コスト削減
不純物Dと溶媒Zをそのまま捨てていると、廃棄物の量はとても多くなります。
処分するために費用が掛かりますね。
この絶対的な理由で、蒸留をして溶媒をできるだけ回収しようとします。
生産機会が無くなるリスク
溶媒の回収をせずに、全量を廃棄しようとすると、その廃棄スキームが常に成立しているかを考えないといけません。
敷地内で廃棄するにしても、外部委託するにしても、そこが機能していないと生産が止まります。
輸送がストップするリスクもありますね。
処分するにしてもコストだけを考えては駄目で、少しくらいのコストなら自プラントで回収するというのは大きなメリットです。
エネルギー削減
廃棄処分をせずに再利用したら、エネルギー的にもロスが少なくなりますね。
蒸留をするとスチームを使ったり冷却水を使ったりとエネルギーが増える方向ですが、溶媒をエネルギーとして考えると処分せずに再利用することはエネルギーを減らす方向になります。
蒸留設備を持つ場合に考えること
蒸留設備を自前で持とうとしたとき、考えることは色々あります。
安定性
蒸留でリサイクルをするときに最初に考えることは、安定性です。
不純物Dと溶媒Zから溶媒Zを一定量取り除いたとしたら、溶媒Zは濃くなります。
不純物Dが実は安定性が良くなく、溶媒Zが薄い場合には問題がなくても濃い場合には危ないというケース。
残った不純物Dと溶媒Zが、勝手に燃えてしまうこともあり得ます。
これを最初に考えておかないといけません。
溶媒をどれだけの量だけ回収するかはリサイクル率そのものとなるので、蒸留でしっかり制御しておかないといけません。
材質
材質の問題も考えておかないといけません。
溶媒Zが薄い場合には腐食性が無くても、溶媒Zが濃い場合には腐食性が上がるというケース。
溶媒回収をいろいろなプラントに共通的に当てはめようとしても、あるプラントはSUSで良くても別のプラントではNGということがありえます。
回収量を左右する要素となります。
エネルギー
蒸留でスチームを使う場合には、エネルギーが増えると書きました。
これを少なくする取り組みは近年なされています。
例えば膜分離がその1つ。
少しでもスチーム量が少なくすることは、省エネルギーにとって大事です。
回収のスキーム
溶媒回収のスキームは、いくつか考えられます。
自プラントで回収する
基本は自プラントで回収します。
プラントの運転に伴い発生する溶媒なので、プラントの運転を知っている部門が行うのが妥当です。
バッチプラントの場合、毎バッチの蒸留で得られる溶媒の性状は微妙に変わります。
反応条件がこうだったから、溶媒回収はこうなるはずだ。
そういう目途を付けれますからね。
社内共通回収プラントを持つ
自プラントのプロセスとして蒸留設備を持つ以外に、工場内で共通回収プラントを持つということは考えられます。
高級材質にしてしまい、工場内の各プラントの溶媒が使えるようにし、腐食性の問題を解決してしまおうという狙いです。
社内で輸送が必要となり人手が増えたり、稼働面で必要な回収設備の数が多くなったり、と考えることはありますが、1つの選択肢になるでしょう。
品質が安定しないバッチプラントの蒸留でも、社内や工場内なら一部門に集約させても、問題になりにくいです。
それでも特定の製造プラントだけ不安定、というような良し悪しの評価が生まれてしまいますが・・・。
外部回収会社に依頼する
外部に依頼する方法です。
意外と難しいです。
大きな理由は溶媒の組成の均一性。
バッチプラントは、連続プラントのように均一の溶媒が回収できるわけではありません。
これを製品として外部回収会社に依頼しようとしたら、契約や日常運転で問題が出てきます。
参考
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最後に
蒸留で溶媒リサイクルをして省エネルギー化を考えるときの、概要を解説しました。
化学反応における溶媒回収の位置づけから、廃棄に比べて溶媒リサイクルがコスト・生産機会・エネルギーのいずれにもメリットがあります。
蒸留設備を持つにしても安定性・材質は考える必要があります。
自プラントで設備を持つことが基本ですが、集約化や外部委託も考えられるでしょう。
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