大気圧タンクでは風荷重と地震荷重の計算をします。
タンクが空の時は風でタンクが飛ばされる可能性があり、タンクが液で満たされている時は地震で転倒するリスクがあります。
どちらのケースでも耐えられるようにタンクの形状を考えたり、アンカーボルトを設置したり考えます。
パイプスタンドなどの構造物だと地震荷重の方が圧倒的ですが、その数値感を1つの例で確認してみましょう。
計算は簡略化していますが、イメージをつかむにはこれくらいが良いと思っています。
タンクの計算に使う値
タンクの風荷重や地震荷重の計算に使う値は下記のとおりです。
項目 | 値 |
タンク径 | 1m |
タンク高さ | 1m |
タンク厚み | 3mm |
液比重 | 1000kg/m3 |
材質 | SS400 |
地域別補正係数 | 0.85 |
地盤別補正係数 | 2.00 |
風力係数 | 0.70 |
すごく簡単な値です。
事前計算
風荷重や地震荷重の計算の前に、少し計算があります。
タンク自重
タンクの自重を計算します。
簡単な円筒として考えましょう。
直径1m、高さ1m、厚み3mmの鉄の重さの計算です。
円筒部:3.14*1*1*0.003*7850=74kg
円板部:3.14/4*1^2*0.003*7980*2=38kg
合計 :74+38=112kg
タンク厚みやステージなどの付帯設備によって、重量は当然変わります。
液自重
液体の自重を計算します。
3.14/4*1^2*1*1000=785kg
風荷重
風が吹いたときにタンクが受ける力を計算します。
風圧力 :60*0.7*√1=42kg/m2
受圧面積:1*1=1m2
風荷重 :42*1=42kg
風圧力は0.6*風力係数*タンク高さの平方根で計算しています。
風荷重
風荷重に対する計算を行いましょう。
抵抗モーメントと転倒モーメントという2つを計算します。
抵抗モーメント
抵抗モーメントはタンクが空の時の自重を使って計算します。
112*1/2=56kg・m
1/2の部分は、タンク径1mの1/2mがモーメントの腕となるからです。
タンクの取り扱い高さや幾何容量など考えると、微妙に変わってきます。
転倒モーメント
転倒モーメントは、風荷重を使います。
42*1/2=21kg・m
1/2の部分は、タンク高さ1mの重心が1/2mだからです。
判定
判定をしましょう。
抵抗モーメント > 転倒モーメント
であるため、ボルトなどを付けなくても風によって倒れることが無いという判定です。
タンクが重たいからですね。
液体が入っているとタンクの重量が重たくなるので、抵抗モーメントがさらに増えて有利な判定になります。
地震荷重
地震荷重に対する計算を行いましょう。
抵抗モーメント
抵抗モーメントは、タンクに液が入っている時の自重を使って計算します。
(112+785)*(1-0.15*0.85*2.00/2)*1/2=391kg・m
液重量が入っていることに注意しましょう。
0.15*0.85*2.00/2は設計鉛直震度といいます。設計水平震度の1/2です。
転倒モーメント
転倒モーメントは、風荷重ではなく地震荷重を使います。
(112+785)*1/2*0.15*0.85*2.00=114kg・m
0.15*0.85*2.00の部分は設計水平震度というもので、0.15は係数、0.85と2.00は与えられた補正係数ですね。
タンクの空重量部分と液重量部分の重心を分割して計算することも可能です。結果は大きくは変わりませんが・・・。
判定
判定をしましょう。
抵抗モーメント > 転倒モーメント
であるため、地震が起きたときには転倒する可能性が低いです。
したがってタンクにボルトを設置する必要はなく、地盤面(厳密には立ち上がり基礎面)に直接置くだけという対応が多いです。
風荷重と地震荷重
風荷重と地震荷重の大小関係を見てみましょう。
風荷重による転倒モーメント :21kg・m
地震荷重による転倒モーメント:114kg・m
この結果からも、風荷重<地震荷重であることが分かります。
パイプスタンドなどの強度計算上、地震荷重が重視されることは、この結果からも関連付けられそうですね。
一度簡単な計算をして、地震荷重が大きいものだという感覚さえつかんでいれば、まずは初心者を卒業したと言えるでしょう。
径と高さが変わった時は・・・
今回は径と高さが同じという特殊な例で考えました。
径と高さが異なる場合、感覚的に分かる通り径が小さく・高さが高い方が危険側です。
例えば、径が0.5m、高さが2mという場合の計算を、風荷重側だけ示します。(タンク自重は変わらないとします。詳細に計算すると転倒モーメントが軽い側に出ます)
転倒モーメント:112*1/2=56kg・m → 112*0.5/2=28kg・m
抵抗モーメント:42*1/2=21kg・m → 42*2/2=42kg・m
モーメントの腕の部分が変わるので、計算結果は当然変わり、この例ではアンカーボルトが必要という計算結果になります。
参考
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最後に
大気圧タンクを例に風荷重と地震荷重の計算を1つ行いました。
転倒モーメントと抵抗モーメントを計算し、風荷重より地震荷重が大きいことを感覚的につかむためのサンプルです。
一度計算するのとしないのとでは大きな違いだと思っています。
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