プラントの安定運転をするためには、複数台でカバーするというのはとても大事です。
しかし、意外と重視されません。
- 建設時にはコストを最小化するために、台数を削減したい
- 建て終わってしまうと、後で設備を入れる場所がない
- 建てた後は、現状維持で精いっぱい
- ランニングコストは必要経費
こんな感じなので、プラントライフサイクルを考えることはほとんどありません。
プラント運転に関する各種の検討を進めていけば、複数台でカバーすることが絶対正義であると確信していきます。
例をいくつか紹介しましょう。
メンテナンスができる
複数台の設備を設置する最大のメリットは、メンテナンスができるという点にあります。
排水処理設備やユーティリティ供給設備など、言葉通り24時間365日運転を求められ、シャットダウンメンテナンスができないプラントが対象です。
最低限の設備として1セット持てば、確かに運転は可能です。
ところが、30年40年と運転を続けていくうちに、メンテナンスができない設備があることに気が付きます。
そのタイミングで慌てて更新しようにも運転を止めることはできず、近くにバッファ設備を置こうとします。
場所が近くになくて配管工事費が膨大になったり、詰まりなどのトラブルを起こしたりするかもしれません。
近くに場所を確保するために、周囲の設備を移動させて費用が掛かるかも知れません。
後々になって響いてくる話です。
工場の経験が短いキャリアなら、問題に気が付かないで会社人生が終わってしまう場合もあるでしょう。
バッファの役割
複数台の設備を置くと、バッファの機能を持たせることができます。
運転上のトラブルが起きたときに、バッファ設備にプロセスを移行させて、その間に処置をします。
設備であればメンテナンスと同じ意味になりますが、運転上のトラブルの場合は設備の洗浄など運転再開のための処置が必要になります。
バッチプラントで反応器を複数台置くことは、バッファの機能を自然と持っています。
生産量を度外視すれば、反応器は数個レベルでも製品ができます。
それなりに大量の生産をしようとしたら、反応器を10個20個と必要になって、気が付いたらバッファの機能が付与されたという感じでしょう。
私もあまり意識したことはありませんが、ふと考えてみると大事なことですね。
低負荷運転が可能
複数台の設備を設置すると低負荷運転が可能になります。
これは連続プラントで効いてきます。
例えば、1セットの設備を準備していて、そこに塔の能力を最適化してしまった場合、ロードを下げると塔の運転ができなくなります。
例えば50%以下のロードはとても厳しいでしょう。
単純に塔径と線速度の関係で決まってしまいます。
生産日数を押させることで低負荷の代わりの低生産ができるプラントもありますが、プラントを止めている方が設備にとって不健全な場合もあります。
生産活動をやめない限り、一定量の生産をし続けないといけない。
こういうプラントの場合は複数台設置しているだけで選択肢が増えます。
1台設置 | 2台分割 | |
1台目 | 50~100% | 25~50% |
2台目 | 0% | 25~50% |
調整可能範囲 | 50~100% | 25~100% |
1つの設備で50~100%の範囲で運転できる設備で2台に分割できれば、1台ずつ25~50%の能力を持つことになります。
1台だけ運転すれば最小で25%まで下げることができるので、調整可能範囲が広がります。
この考え方は連続プラントのプロセスだけでなく、バッチプラントのユーティリティ設備にも当てはまります。
1台で設置する方が、イニシャルコストは安いですし、最大負荷の場合はランニングコストも安いです。
生産量が年によって安定しないのがプラントなので、最大ケースだけで考えるとリスクがある、という点が見過ごされがちです。
故障時に大活躍
複数台の設備を設置していると、故障時に大活躍です。
とにかく運転を止めたくない
プラント運転者の最大のニーズに、即断で対応できます。
仮に1台しかない設備なら、最速で復旧するために各種リソースの準備や手配が必要になります。
土日も関係ありません。
ワークライフバランスが大事な昨今では、土日に対応したり、不安を抱えたまま休みの日を過ごしたりすることも不健全です。
素早く問題の進行を止めて、休みはしっかりとり、休日明けにスムーズに対応できる、余裕のあるプラントとするには、複数台の設置は非常に重要な意味を持ちます。
参考
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最後に
化学プラントでは重要設備は複数台でカバーすることが戦略的に重要です。
コスト削減のために1台設置で済ませようとしがちですが、長期的な運転では不利です。
低負荷運転やトラブル対応など安定した運転をするためには、複数台化させましょう。
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