化学プラントにおける「計器室(Instrument Room)」は、単なる制御室ではありません。
ここはDCS(分散制御システム)の心臓部であり、プラント全体の運転を監視・制御する最も重要な場所です。
そのため、設計段階から温湿度・正圧・電源系統・清浄度・防爆対策など、さまざまな条件を考慮する必要があります。
この記事では、実際のプラント設計・運用経験に基づき、計器室に求められる設計と設備の要点を解説します。
計器室とは
計器室はDCSを管理運用するための部屋という認識でOKでしょう。そのために必要な構成は大きく以下の4つです。
パソコンがある部屋
パソコン画面やモニターがいっぱい並んでいる部屋です。計器室というと一般にこれをイメージするでしょう。
計器室には最低でも常時1人が在室している環境を作ります。工場の全停電があっても在室します。
プラントの心臓部だからこそ絶やしてはいけませんね。DCSを操作する人をボードマンと呼んだりします。反対に現場操作する人をフィールドマンと呼びます。
ボードマンからの指示を無線などでフィールドマンが受け取って作業をするというのが工場の基本的な動かし方です。最近では防爆のモニターでDCS画面を現地で確認できたり、自動化も進んでいるので作業感がちょっとずつ変わっているでしょう。連続プラントならこんなことを考えずにいられますが、バッチなら自動化かどうかを常に視野に入れていないとないけませんね。
電気盤を設置する部屋
計器室には電気関係の盤が並んでいます。電気エンジニアが仕事をするメイン部分です。プラント外から電気を引っ張り込み、配電盤などを通じて各設備に電気を分配供給します。
構成はプラントによって少しずつ違うでしょうが、系統は似たものなはずです。DCSや計装盤との情報やり取りが多いため、電気室は計器室内の専用の部屋を置くことが多いです。別の室を設けても良いですが、単純にコストアップになるだけです。
非常用発電機を設置する部屋
計器室には非常用発電機を置くことが多いです。これは停電や地震などで、電気が供給されない時にもプラントを動かすため。計器室の電気を供給するため、計器室に直近もしくは計器室内に専用の部屋を置きます。
計装盤を設置する部屋
DCSと計装機器を繋ぐための計装盤を設置する部屋も、計器室には必要です。電気盤と同じ思想ですが、電気と計装は分けた方が整理しやすいので個別の部屋にすることが多いでしょう。
計器室に求められる性質
計器室と言ってもいくつかの部屋から構成されることが分かりました。それぞれの部屋で求められる機能が少しずつ違います。
温湿度
計器室では温湿度管理をしっかりします。これは一言でいうと電子部品を守るため。
温度が高いと電子部品の放熱が妨げられ熱暴走したり、温度が低いと寿命が縮んだり、湿度が高いと電子部品に水が付いてショートしたり、湿度が低くても大気中に静電気が逃げなかったり・・・化学プラントでは安全安定にプラントを動かすために不確定な要素は少しでも取り除こうとします。
温度は15~30℃・湿度は40~80%くらいの範囲で、24時間365日一定に保つようにします。このためにDCS室にエアコンをつけます。計器室の機能の中でも非常用発電機だけは温湿度管理の対象から外れるでしょう。
陽圧管理
計器室は外よりも若干圧力が高い環境を維持します。これは有機溶媒などの危険物が計器室に漏れこむことを極端に嫌います。計器室の電装品はすべて非防爆。ここに引火爆発しやすい物質が入ってくれば、計器室内で大災害が起こる可能性があります。
清浄性
計器室は空気が清浄な状態が求められます。空気清浄度の中でも粉塵は重要な要素。ほこりが溜まると、コンセントなどで発火する恐れがあります。パソコンでもその危険性はあります。部屋そのものをきれいに保つために、内圧ファンの入口にフィルターを付けます。

化学プラントならではの酸系のガスが、酸性雨と同じ原理で悪影響を与える可能性もあります。化学プラントからのガス濃度がなるべく薄い場所から空気を取り入れないといけません。
内圧ファンを付けることで自ずと陽圧管理もしやすくなります。また、パソコン函体周りにもフィルターを付けて対策を取っている工場もあるでしょう。扉を二重にしているのも清浄性を気にしてのこと。
堅牢強固
計器室は堅牢強固な構造が求められます。これは工場で異常が起こって爆発が起きても、計器室が崩れ落ちないという意味です。
異常反応を制御できなくなっていよいよ終わり!そんな時に避難する場所として設計されています。
地震や津波に対しても同じ。非常用発電機も含めて計器室は強固な造りにしましょう。
分析室
計器室には分析室を必ず設けます。これは運転の工程分析や切替時の分析などのため。運転員がすでに決まった方法でGCやLCを使って分析をします。
専用の分析員を別の執務建屋に配置するケースと、計器室に付属するケースがあります。専用の分析員は製品分析など品質保証の役割を持ちますので、できるだけ独立させた方が良いでしょう。
休憩室
計器室には必ず休憩室を設けます。これは運転員のため。主に食事とちょっとした休憩の場所です。作業員のロッカー・机・電子レンジ・流し台などが置いてあります。工場によってはテレビ・マッサージ機などがあったりします。
昔は煙草部屋も完備されていましたね。。これは純粋な建屋なので、計器室のような特別な機能は求められません。
会議室
計器室には会議室を設けることが多いです。申し送り・発表会・臨時集会・工事連絡などの場として使います。会議が多い弊社では、重要な会議室場所としても使います。
事務所
計器室には事務所を置く場合があります。これは現場の主任レベルの部屋。課長クラスの人の事務所は別の場所に配置している方が健全でしょう。
現場の最高責任者である主任のためにも、計器室で執務する事務所は極力少ない方が良いです。部屋でなくて計器室の一部に、主任のための机を設ける場合もあるでしょう。
参考
計器室のレイアウトはプラント建設では実は非常に大事です。
一度立ててしまったら後で変更が利かないという意味でプラントとほぼ同じ。
しっかり検討していい計器室を作るためには、プラント建設の知識があった方が有利です。
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最後に
計器室の設計は、単なる「設備設置場所」の話ではなく、プラントの信頼性を左右する設計要素です。
温湿度管理・正圧設計・電源分離・清浄度管理といった基本を確実に押さえることで、
長期安定運転とトラブル低減を両立できます。
DCSを扱う技術者にとって、計器室は「機械室ではなく、制御のための環境設備」であることを意識することが大切です。
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