オーナーエンジニアの社内投資案件を見積するときの、単価(unit price)な考え方を紹介します。
単価見積なんて表現しますね。
製造業でも建設業でも単価の考え方は大事です。
ところが、オーナーエンジニアの場合はそういう世界とは離れて、自社の狭い世界での細かな見積を行いがちです。
過去に積み上げた手法で、とにかく時間を掛けて見積をしがち。
単価をどういう風に設定するかだけで、見積の精度や速度がガラッと変わるという当たり前の事実に目を背けて。
この記事を読むと、単価の考え方を知ることができ、実践できると見積作業がグッと楽になります。
見積の意義
投資案件の見積の意義を改めて考えましょう。
見積とは実際に費用が発生する前にこれくらいの金額が必要だろうと前もって予測する行為です。
実際の費用がどれくらいの金額か分からないと、投資は怖くてできません。
設備投資の流れをザックリ表現すると以下のようなタイムスケジュールになります。
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最初に行うのが概算見積。これはラング係数の世界です。
次に行うのが詳細見積。機電系エンジニアの腕の見せどころ。
今回のテーマもこの詳細見積です。
その見積内容に対して経済性や妥当性を評価する社内審査があり、パスした案件が無事着工となります。
見積単価(unit price)
見積では見積単価という概念が大事です。
見積単価とは以下の計算式で成立します。
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かんたんですよね。
ということは奥が深いということです。
この見積単価はユーザーの見積方法によって違う部分はあるでしょう。
共通しているのは、その会社で行った過去の投資案件をデータベース化しているということ。
見積作業のカギとなる部分です。
主要な単価は記憶しておくくらいで良いです。
機械関係の見積
化学プラントのプロジェクトは機械・電気・計装・土建くらいに分けると思います。
ここでは機械に対する見積を例にします。
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設備価格
設備価格は静機器と動機器で基本的には分けます。
静機器は重量
静機器はシンプルに考えると重量で代表可能です。
例えば、塔やタンクなら径や高さなどの寸法情報があった方が良いという意見もあるでしょう。
タンクなら容量が主要指標となるはずですから当然ともいえます。
でもその容量は重量とほぼ直結します。
その意味で重量を最も重要な指標と捉えると、積算時の指標作りが楽になります。
熱交換器などで伝熱面積を指標とする意見もありますが、これも重量で代表可能です。
動機器は動力
動機器はシンプルに動力で統一できます。
例えば、ポンプなら流量×揚程の情報が必要という人もいるかも知れません。
それは積算ではなく、設計に必要な情報です。
動力がわかれば、ポンプのおおよその能力も分かり、費用もわかります。
そもそも化学プラントの場合、防爆であるかどうかが費用を決めるメイン指標であり、その意味でも動力の方がコストインパクトの大きいモーターを決める指標となると思います。
特殊設備はメーカーに聞く
特殊設備は重量や動力といった分かりやすい指標では上手くいかないこともあるでしょう。
特に狭い業界だと世界の情勢に結構左右されます。
狭くはなくても例えば2021年現在だとガラスやフッ素樹脂はとても高騰しています。
この辺はメーカーに聞くしかないでしょう。
というかメーカーの情報を都度集めるのはエンジニアの仕事ではなく調達部の仕事です。
事務的な調達部では難しいでしょうが、技術を知っている調達部なら可能です。
工事価格
工事は各種業態によって細かく分かれます。
据付工事は重量
据付工事は設備の重量で代表します。
これは結構奥が深くて、重量だけでは計算できない要素が結構あります。
重機が代表例でしょう。
重機は重量とは外出ししてカウントすると正確性はアップします。
でも、実際には必要ないかも知れませんね。
というのも機械の見積額の大多数は配管工事だからです。
配管工事は重量
配管工事は重量で代表することになるでしょう。
径と長さが決まれば、重量はほぼ決まります。
プラントの単位面積当たりに施工する配管重量を規定するか、設備1基あたりに施工する配管重量を規定すれば良いと思います。
材質・口径や設置環境によって多少の係数を加えるのが普通です。
配管工事の詳細は、例えば資材費+内作費+取付費+試験費などで構成されるでしょう。
これらをザックリ重量で代表させるという思想です。
この重量の配管工事なら、資材が〇%・内作が△%・・・という感じです。
配管工事こそデータベース化がカギです。
類似内容で大量に見積がある社内投資案件では、データベースがないと処理しきれないでしょう。
足場工事は面積
足場工事は面積で代表するでしょう。
もしくは容積ですね。
必要な作業内容が大体決まっていて作業高さが決まっている以上、単位面積あたりに必要な足場のボリュームが固定化されるからです。
断熱は容積
断熱工事は容積で代表するでしょう。
重量と言った方が良いかも知れません。
厚み×面積の世界です。
これも実際には見積額に占める割合が低くて、実は真面目に見なくてもいいのでは?と思います。
見積のテクニック
実際の見積でとても大事なテクニック的な部分を集めました。
社内の投資スケジュールを意識せずに見積依頼が来て、突発で見積をしないといけないケースはたたあります。
そんな中で最速で見積を終わらせるためのテクニックです。
周りに振り回されずに自分のペースで仕事をするためにとても大事。
- まずは他人に振る
- 据付方法を決める
- 設備価格と配管工事だけ決める
- 他部門の見積と帳尻を合わせる
順番に解説しましょう。
他人に振る
まずはとにかく他人に振ってください。
1分1秒でも早くです。
見積は自分だけでは進めることができません。
他人に依頼しないといけません。
ここで他人に依頼するタイミングが遅れれば遅れるほど、その人の時間が無くなり困ります。
他人に迷惑をかけないためにも、とにかく誰かに振りましょう。
- 社内の担当者
- メーカー
という2パターンがあります。
社内の担当者は問答無用で依頼する方が良いです。
単純に労力を分割できます。
見積案を何も考えていなくても依頼してOKです。何も気にしなくて良いです。
メーカーは依頼するべきかどうか悩むところ。
メーカーに見積を依頼すると精度は上がります。
でも実施するかどうかわからないタイミングで都度メーカーに依頼するのは、メーカーの負荷がとても高いです。
ワークライフバランスが叫ばれるこのご時世では控えた方が良いでしょう。
メーカーが現段階で見積をしても、不可避な事情で単価がアップすることも最近では増えています。
メーカーも予算取りのための見積は最近では敬遠する方向ですね。
据付方法を決める
化学プラントの設備見積でも大きな影響を与えるのが据付工事。
据付会社が据付をするという作業だけを取るとそんなに金額は掛かりません。
問題は付帯工事。
バッチ系化学プラントなら、プラントに大型の反応器を付けたり外したりする作業があります。
これをどうやって行うか。
現場の状況を見ながら邪魔な設備を外していく作業を見積もらないといけません。
土建・電気・計装などの付帯設備も外していかないといけません。
彼らの見積内容に影響がでてくるので、最初に決めておくべきことでしょう。
まずは土建・電気・計装に見積を依頼して、会議を設定して現場で打ち合わせる。
会議設定をして会議までの間に見積内容を考えればOKです。とにかく先に時間の確保。
設備価格と配管工事を見積
他部門へ振り終わったら、機械系エンジニア自身の見積を行います。
設備価格と配管工事の見積は最低限行いましょう。
どちらも目立つからです。
この具体的な手法は会社によって変わるでしょう。
数多くの見積項目のうちでも主要な2項目だけに絞って見積をすることで、全体像をつかむことが狙いです。
他部門の見積と帳尻を合わせる
そうこうしている間に、他部門の見積が上がってきます。
ここで機械エンジニアは帳尻合わせの作業に入りましょう。
他部門の金額を眺めながら、配管工事以外の工事額をそれっぽく積算して合算した数字に対して、投資額を丸める作業です。
例えば39,785,400円という見積額を貰ったとして誰が喜ぶでしょうか。
この辺はざっくりと39,800,000円でOKです。
この作業を私は水増しと呼んでいます。
見積単価自身があまり精度がないものなのに、細かい金額を真面目に算出しようとするエンジニアがいますが、なかなか考え方を変えるのが難しいです。
新入社員など、初心者は個々の項目を正確に見積もりすることは意味があります。
一定の年数が経てば、細かいことにこだわる余裕が無くなりつつ、こだわる意味もないことに気が付くでしょう。
参考
最後に
化学プラントで行う設備投資の見積単価と使い方について紹介しました。
見積はオーナーエンジニアのスキルの1つ。
機械・電気・計装・土建という分類、機械見積の対する単価の考えかた、他人に振って説明会を開いた後に自分が見積をするという時間の流れについて強調しています。
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