最近X(twitter)で、朝一番に蛇口から水道水を飲んで食中毒というポストを見ました。水は腐るもので、水道管内に滞留している水道水が危ない、ということは化学会社で働く技術系なら知っている人も多いと思います。
というのも化学工場の運転でも同じ考え方を使うからです。私のところでは端切りと呼んでいます。端切り自身は化学工場以外でも使われる表現です。今回の記事では、化学工場での端切りの例を紹介しましょう。
サンプリング
サンプリングをするときには端切りは必須です。例えば、ポンプの圧力計やドレン抜きからサンプリングする例を考えましょう(この例自体があまり良くない危ないですが・・・)。

図の赤丸で囲った部分は、配管内でも液が動かない部分です。バルブを開けると最初にこの溜まっている部分の液体が排出されます。この液体をサンプリングとして採取した場合、本当に知りたい情報とは違う情報が得られてしまう可能性があります。
水が空気中に触れて腐っていくのと同じように、化学物質も配管内で腐る可能性があります。ただしバッチ運転のように24時間単位で液が入れ替わる場合は、24時間で腐るかどうかを評価すれば大きい問題にはならないでしょう。
もっと単純に、液体が止まっている状態でサンプリングをすると、代表点を抽出できているのか?ということが疑問になります。安定した品質を得るという意味ではNGですね。
対策として端切りをします。すなわちサンプリングをするときは、バルブを開けて一定時間は液を流してそれから液を採取します。そういえば、尿検査も同じですね。
医薬関係では、タンク上部の水が腐らないように大循環を掛けて必要な時だけタンクに入れる切換弁を付けていたりしますね。
ポンプ吸込
ポンプの吸込口は端切りの対象となりえます。先ほどのサンプリングの図を少し拡げてみましょう。そこには下の図のような貯槽からポンプに配管が引っ張られているとします。

この場合、ポンプの吸い込み口が液の溜まる場所となります。
典型例は水と油の分液。この場合は、当該バッチで水→油の順にラインを使用しても油が残った状態になり、次バッチで水が混入する可能性があります。
端切りの考え方を使うなら、ライン中に溜まる油をバッチ終了時に液抜きすることになります。ただし、油の場合は処理に困るので、端切りというよりは液溜まりを解除するために窒素ブローなどを使う方がいいでしょう。
ブローして配管内の溜まりを無くし、表面に付着している分程度の混ざりなら許容できるという品質確保の仕方をします。ブローしなくても滞留分の混入でOKという品質であれば、なお良いですね。
窒素ブローも配管の付け方や、ブローの仕方など、運転面で注意するポイントはあります。
粉体
液体と同じように粉体も端切の対象です。製品が粉体という場合で、振動篩から粉体を充填する場合を考えましょう。

分かりやすい場所として赤丸の位置は粉体が貯まります。もっといえば道中の配管も、その上部の乾燥機や遠心分離機なども、溜まりが起きえます。
バッチ運転で、この溜まりを解消したり完全に除去するのは難しいです。多少の混ざりは許容することになるでしょう。
代わりにサンプリングを工夫します。例えば1バッチ30缶のドラム缶に充填するなら、1缶目の後半(上の方)からサンプリングするなどです。1缶目の前半(底の方)だと、前バッチの品が混入している可能性があるからですね。
設備を新設した場合やSDMでライン洗浄した場合の、設備やライン中は運転中とは異なる状態です。洗浄で綺麗にしているからOKという話ではなく、製品が付いた状態でないという異常な状態です。この状態で製品が付いた場合、製品の品質が通常の物とは違う可能性が出てきます。ここを端切りの考え方で、一部の粉体を流して廃棄するという方法が考えられます。
どこまで端切りすればいいのか、そもそも効果があるのか、という話もありますが。
参考
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最後に
化学工場における「端切り」は、滞留液や残留粉体による品質異常・交差汚染を防ぐための基本操作です。水道水のように、動かない液は腐る可能性があるという視点を持つことで、設備設計や運転管理の質が高まります。
現場での実践ポイント:
- サンプリング時は“流してから採る”が基本
- ポンプ吸込部は液抜き・ブロー
- 粉体ラインでは廃棄
「どこまでやればいいのか?」という線引きも重要ですが、端切りを意識すること自体が品質意識の現れだといえるでしょう。
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