2024年1月5日「ガイアの夜明け」(テレビ東京)にて放送された清水建設の女性監督の件、ご存じでしょうか?
話題になっていますので、検索すればヒットします。
遅刻してすぐに上司に報告せずに先に食事をとったという、部分です。
ここで、一言このセリフが出てきます。
「あなたの言うことを職人さんが聞かなくなるよ」
この話、とても良く分かります。
化学会社の機電系エンジニアとして各施工会社の監理をする中で、実感しています。
元請である建設会社の監督とは立場が違いますが、状況は似ています。
化学会社の工事監理者
化学会社の工事監理者の位置づけを最初に見ておきましょう。
工事監督と言っても、発注者と受注者で立場が異なります。
発注者
化学会社の工事監督者は、発注者の位置づけです。
発注者側の工事監理エンジニアとして、受注者側の工事監督者とやり取りをする窓口的な存在です。
受注者側は建設会社などの専門の工事会社です。
受注者から質問や相談を受けて、都度的確に対応する能力が求められます。
受注者
受注者の工事監督は、自社の工事全体を調整したり、一部の仕事を下請に依頼してその調整をしたりします。
工事の規模が大きくなるほど、下請の数は多くなり大変です。
清水建設の監督の例もここに当てはまるでしょう。
多くの下請に依頼する立場ですが、下請がその監督の言うことを聞かなくなると大問題です。
発注者の監理者も似たようなもの
清水建設の例を見て最初に私が感じたことです。
私のところも一緒
機電系エンジニアなど工事のことを知っていない、一般的な建設工事なら工事監理者といっても何も知らないでも許されるでしょう。
受注者である工事監督さんに完全お任せです。
化学プラントの工事監理者の場合は、例えば既存プラントの改造工事などでは受注者に完全にお任せすることは、安全上許されません。
他にもコストや品質の面でもチェックが必要です。
ところが工事の基本的な知識・工事を取り巻く環境・関わる人の考え方など何も考えずに、自分はこう考えるというタイプの人が増えています。
清水建設の例を見て他人ごとではないな、と感じました。
ユーザー工事監理者が遅刻するとどうなるか?
清水建設の女性監督と同じように、ユーザー工事監理者が遅刻して報告が遅れるとどういうことが起こるか、整理します。
工事が始まらない
発注者側の工事監理エンジニアが遅刻すると、工事を始めることはできません。
受注者は発注者の許可を得て、日々の工事を実施します。
毎日環境が変わる工事現場では、毎日の工事進捗を見ながら安全上問題ないかチェックして、工事の許可を出します。
工事監理エンジニアは、発注者側で工事現場を一番見て理解している人です。
この人が許可を出すことが、通常の工事ルールとして定められているでしょう。
遅刻をすると工事が進まなくなって、工程は遅れ・人も資材も無駄になってしまいます。
現実的には上司など他の人がフォローして、工事許可のサインを代理で実施するでしょう。
その人が気持ちよく代行できるように、遅刻するなら前もって連絡するのが日本企業の常識のはずですよね。
でも、現実には国籍・年齢関係なく、清水建設の例と同じことをする工事監理エンジニアは存在します。
何も言わずに勝手に有休を取得し、工事許可を何も言わずに代行させる人。
非常に増えています。
それでも指摘してしまうと、やる気をより失っていくようなので、指摘すらできません。
上司は部下がいつ休んでも良いように、常時待機しないといけなくなります。嫌ですよね。
重要な伝達事項が漏れてしまう
遅刻して誰かが代理で許可を出すとき、実は重要な伝達事項が漏れる恐れがあります。
日々の工事連絡会で交わす工事計画表には書いてない情報って、結構あります。
こんな日々の問題を、発注者と受注者は都度処理しながら工事を実施します。
代理の者は重要な伝達事項の報告を聞いていないという可能性があります。
これで事故が起こったら、たまったものではありません。
怖いですよね。
なぜ、情報が洩れるかというと、工事監理エンジニアが隠したがるから。
- 危険・重要だと思わない
- 受注者の工事監督に自分が指示したい
- 自分だけが知っている情報を増やしたい
- 説明しなくても、上司は現場を熟知しておくべき
- 自信がないから上司に説明して、ボロが出るのが怖い
工事監理エンジニアでも経験が浅い人ほど、この傾向があります。繰り返しますが、年齢は関係ありません。
発注者が上、受注者が下という構図(上の図でもそう書いてしまっていますが・・・)が、気楽だからでしょうか。
工事監理としての経験が長くなるほど、この考え方は薄くなっていきます。
ユーザー工事監理者が信頼されないとこうなる
遅刻自体も問題ですが、それ以上に問題なのが
「あなたの言うことを職人さんが聞かなくなるよ」
これと同じことが、化学プラントの工事監理エンジニアでも起こり始めています。
工事の実態を把握できない
受注者が発注者の言うことを聞かなくなると、発注者は工事の実態を把握できなくなります。
この結果、以下のような問題が起きます。
- 事前に工事工程を組むことができない → 工期が遅れる
- 現場で工程調整ができない → 工期が遅れる
- 現場の問題を上に報告できない → 事故のリスクが低減できない
長いプロジェクトになると、工事の工程をしっかり計画することは非常に大事です。
工事後の生産計画に直接影響を与えるからですね。
1年のうち3カ月プラントを止めるのと、4カ月プラントを止めるのでは多違い。
この1カ月のオーダーで工程を組めなくなってしまいます。
施工会社1社だけの調整ならその会社の工事監督さんに頑張ってもらって、事なきを得る可能性もあります。
多くの施工会社が関係する場合、現場での調整は非常に難しくなるでしょう。
工期が遅れるのを嫌がって、無理矢理工期内に収めようとしてしまって、事故を起こしてしまうかも知れません。
工事管理エンジニアは施工会社の工事監督の生の声を聞く機会が多いのに、実態を把握できないと上に報告してシステムとして改善する機会が無くなります。
現場はますます悪くなっていくでしょう。
1回限りの建設などでは大きな問題にはなりませんが、常駐の施工会社に対してこういう展開になると非常にまずいです。
清水建設の場合でも、その工事では問題なくても別の現場に行ったときのことを考えているのだと思います。
精神衛生上の問題が出る
工期が遅れるというだけでも会社にとっては大きな損害ですが、個人にとってもよろしくありません。
工事監理エンジニアの精神衛生上の問題が出ます。
工事監督や状況にもよりますが、発注者の工事監理エンジニアは現場から厳しい声を掛けられることになるでしょう。
あの人には言っても無駄だから、言わない
という世界ではありません。
現場で事故が起こったら元も子もないので、発注者と言えども強い口調で責められる場合があります。
周りからは見えない場所で、しっかりとそういうことをします。
工事監理エンジニアの中には、精神的に病んでしまう人も出てくるでしょう。
工事監督を嫌がるというのは、この辺に課題があるように感じます。
少なくとも私の部署の場合、相談をしないで自分で抱え込んで処理が遅れる工事監理エンジニアほど、この傾向が強いです。
逆に言うと、すぐに相談してみんなで責任を分担すればそんな問題にならないと思いますけど・・・
参考
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最後に
ガイアの夜明けの清水建設の女性監督の例に対して、化学プラントの工事監理エンジニアでも同じことが言えます。
遅刻して工事が遅れることも問題ですが、安全上のケアができなくなることの方が怖いです。
工事監理エンジニアが現場から信頼されなくても、短期的には問題にならないかも知れません。
しかし、中長期的には明らかに問題です。
工事に関わる人には、そこを意識してほしいですね。
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