化学プラントでの蒸留プロセスは、製品の品質やコストに直結する重要な工程です。中でも「水蒸気蒸留」と「真空ポンプ蒸留」は似ているようで設備構成や運用面で大きく異なります。どちらを選ぶかはプラントの効率や投資額に影響するため、設計段階でしっかり理解しておくことが重要です。
本記事では両者の違いを設備サイズ、コスト、動力消費の観点からわかりやすく比較します。
プロセスエンジニアと機械系エンジニアが分かれている組織では、機械系エンジニアはこの辺りにタッチしにくいですが、考え方はかんたんです。
水蒸気蒸留
水蒸気蒸留のフローを見てみましょう。

蒸留でプロセス液から油1を取り除きます。
プロセス液は油1がない油2だけが残っていると簡単に考えましょう。
水蒸気蒸留では、油1だけが取り除けるわけではなく、水がセットで付いてきます。
水蒸気を熱交換器で凝縮させて水になったものですね。
水と油1がタンク内に溜めた後、水と油1を分離する分液作業が必要となります。
これを受けるためのタンクが必要となります。
理想的には2つのタンクが必要。
運転タイミングを合わせることができれば、追加のタンクは1つだけでも可能な場合があります。
タンクを設置するというのは、プラントの敷地を圧迫させますし、何よりコストが掛かります。
分液を自動で実施する場合には自動弁や流量計などの監視計器が必要ですし、手動だと作業手間が増えます。
水蒸気蒸留では設備投資的には不利な方向と言えるでしょう。
真空ポンプ蒸留
真空ポンプ蒸留のフローを見てみましょう。

真空ポンプでは水蒸気が同伴しないために、油1だけを取り出すことが可能です。
その代わりに、真空ポンプそのものが必要です。
水蒸気蒸留と真空ポンプ蒸留の比較をしておきましょう。
水蒸気蒸留 | 真空ポンプ蒸留 | |
設備サイズ | 大 | 小 |
設備コスト | 大 | 中 |
動力コスト | 大 | 中 |
水蒸気蒸留は色々な面で不利です。
設備サイズ
真空ポンプでも水封式の場合を考えていますが、水と気体を分離するタンクが必要です。
このタンクは水蒸気蒸留のような大型のタンクではなく、ポットレベルの小さなもので構いません。
真空ポンプに水を貯めるだけの容量があればOKです。
設備サイズは真空ポンプ蒸留の方が水蒸気蒸留より有利です。
設備コスト
設備コストは真空ポンプ蒸留の方が水蒸気蒸留より有利です。
タンクそのものと真空ポンプの費用だけを比べてもほぼ同等でしょう。
ここに、タンクを設置するための基礎・架台費用や分液をするための自動化設備が必要となります。
配管費用は水蒸気蒸留と真空ポンプ蒸留では同程度です。
水蒸気蒸留は配管がメイン部が2本必要で、真空ポンプ蒸留はメイン部が1本ですが、真空ポンプは配管口径が大きくなります。
配管本数が多いというだけで、配管設計が難しくなります。
コスト的には大きな差が無いとみておいた方が良いでしょう。
水蒸気蒸留 | 真空ポンプ蒸留 | |
設備費用 | 中 | 中 |
基礎架台費用 | 大 | 中 |
自動化費用 | 中 | 小 |
配管費用 | 中 | 中 |
メンテナンス | 小 | 中 |
動力コスト
動力コストは真空ポンプ蒸留の方が水蒸気蒸留より有利です。
水蒸気蒸留の水蒸気 > 真空ポンプ蒸留の加熱用水蒸気 + 真空ポンプの動力
という関係がある場合に限定されます。
水蒸気蒸留で必要となる真空度が高いほど、水蒸気量は増えていきます。
その分だけ真空ポンプ側の方が有利になっていきます。
メンテナンス
水蒸気蒸留と真空ポンプ蒸留ではメンテナンス面でどれだけ差があるでしょうか?
定量化しにくいですが、水蒸気蒸留の方がやや有利です。
真空ポンプのような可動部を持った設備がないからですね。
真空ポンプの場合には、ベアリングやモーターなどの点検整備が必要となってきます。
一方で、水蒸気蒸留では自動化設備のメンテナンスが載ってくるし配管本数も多いので、真空ポンプ側が絶対に不利というわけでもありません。
参考
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最後に
水蒸気蒸留と真空ポンプ蒸留は、見た目は似ているものの設備構成やコスト面で明確な違いがあります。設備サイズ、投資コスト、運転時の動力消費を総合的に見ると、真空ポンプ蒸留の方が現代のプラントではメリットが大きい傾向にあります。
設計段階でどちらを選ぶかは、プラントの運用方針やコストバランスを踏まえて慎重に検討しましょう。
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