グラスライニング配管設計で、長さの調整を行うことはごく普通にあります。
通常なら真面目に現場の寸法を測定して、必要な長さを決めて、必要な部材を調達していきます。
ところが、グラスライニング配管は近年ものすごく長納期化していますよね。
配管設計を知らない人からは、とにかく早めに手配を!の一言しか発言しませんが、実際は結構面倒なことが多いです。
配管図が決まっていない段階で、調達せざるを得ない状態です。
それを覚悟で設計や調達をしていく時代ですが、グラスライニング配管ならではの調整方法は知っておかないと、対応できないでしょう。
配管設計で必要な調整
グラスライニングに関係なく配管設計では、どこでも寸法調整が必要です。
典型例を見てみましょう。
上部末端側は既存の建屋などに固定された配管です。位置が確定していて、ここを変えることはできません(もしくはとても難しいです)。
下部末端側は配管の繋ぎこみ先である設備は、その寸法が完全には確定していません。
配置レイアウトなど設備の設置位置は大体決めることは可能です。
ところが、現実的にはいくつもの誤差があります。
- 基礎や梁の寸法が10mm単位で変わる
- 設備の寸法は10mm単位で変わる
- 現場の測定が10mm単位で変わる
いずれの誤差も10mm程度のズレが起こりえます。
これも完全になくすことはできません。
だからこそ、配管で調整します。
具体的な調整寸法は、以下の3つになります。
設備に関する情報が不確定なために、調整しないといけないのは、縦横の2方向でしょう。
高さ方向は、通常は固定点と不確定分の間で、配管長さに余裕があるものです。
それでも、高さを任意の位置に決めれば良いというわけではありません。
人の動線・他の配管との干渉などを考慮しながら、ある範囲に抑えようと設計します。
現実的には、高さの制約も調整要素となってしまうでしょう。
これらの配管調整は、グラスライニングに限らず、あらゆる配管で起こります。
金属配管であれば、配管を現場である程度引いた後で、残り1フランジ間を測定して調整するということが可能です。
それができないのが特殊配管。
グラスライニング配管の難しい所です。
グラスライニング配管の寸法調整パターン
グラスライニング配管で調整を行う方法を解説します。
ガスケットとスペーサーの2パターンあります。
ガスケットで調整
ガスケットはmm単位での調整に使います。
例えば、1枚のガスケットは3mm程度なので、2枚重ねれば6mmになります。
では、3枚だと9mm・・・と無限に調整できそうに思えてしまいますが、これはできません。
2枚重ねるくらいが限界でしょう。
というのも、ガスケットの枚数が多くなればなるほど、ガスケット間で位置ズレが起きたり、シールが弱くなったりするからです。
ガスケットは2枚までしか重ねることはできないとしても、配管のピース数が多くなればなるほど、位置調整は可能となります。
例えばエルボ2個と直管1個で囲まれた範囲で、位置調整をしようとしたら、直管前後のガスケット部2個の間で調整が可能です。
6~12mmの範囲ですね。
直管が1個ではなくて2個なら、9~18mmと範囲が広がっていきます。
ガスケットでの調整はmm単位なので、最終調整手段として取っておくべきものです。現地スケッチの誤差などを許容しつつ配管ピースの手配をする、という昨今の事情に対応するものではありません。
ピース数を増やせば増やすほど、ガスケット枚数が増えて漏れる確率は上がります。漏れを少なくするためにも、設置後にピース数を減らすような取替を計画していきましょう。
スペーサーで調整
グラスライニング配管の寸法調整はスペーサーで行います。
スペーサーは10mm単位で可能です。
10mm、20mm、30mm、40mm、50mmなどの寸法があります。
直管も100~200mmの範囲は、10mm単位で調整が可能です。
110mm、120mm、130mm、140mm、150mm、160mm、170mm、180mm、190mm、200mmです。
これらをうまく使うことが求められます。
挟み込み型の部品となるので、位置ずれが起きやすいので、前後ガスケットは2枚重ねるということはしない方が良いです。
静電気的に浮き導体となりますので、ボンディングを施工しましょう。定期的な導通確認が必要になります。
漏れの面でも静電気の面でも良くありませんので、設置後にピース数を減らすような取替を計画していきましょう。
グラスライニング配管の寸法調整例
具体的な例で、グラスライニング配管の寸法調整を見ていきましょう。
例えば、長さ1000mm程度の寸法を調整する場合です。前後ガスケットを調整代に含みます。
1000mmの直管を調達する、というのは適切ではありませんね。
なぜか長い側だけ?
ではどういう調達の仕方をしましょうか。
ここで大事なのは、誤差がどの範囲にあるかです。
よく見られる誤解として、1000~1050mmなどの1000mmよ長い側でしか誤差が出ないと考える人が居ます。
仮にこの場合でも、900mmと100mm~150mmの調整配管で繋ぎ合わせることが無難でしょう
ガスケット部が1つ増えますが、ガスケット調整は3~6mmの範囲でしかできません。
例えば現地測定結果が1040mmの場合なら、まずは以下の基本寸法を押さえます。
900mm+130mm+ガスケット6mm=1036mm
残り4mmは前後ガスケットで調整、ということになります。
900mm+130mmのピースで調整すべき範囲は、1033~1042mmとなります(1043mmなら900mm+140mmにする)。
ガスケットが3枚は追加できるように、配管調整部分はピースを2つ以上設けておきましょう。
短い側もケア
さて、1000mmより長い側だけを予測すればいいわけではなかったですよね。
ここでは、以下の範囲で長さが予測できないと仮定しましょう。
950~1050mm
10cmもズレが起きても許容できる設計なら、建物や設備の寸法が多少変わっても対応できるので安心ですね。
さて、この場合は,900mmの直管は使わずに、800mmの出番です。
950mmに合わせるように、800mm+140mmが基本になります。
ここから1050mmまで変わる可能性があることを考えないといけません。
最大値である1050mmにするためには、100mmの直管を付ければ良いですよね。
問題はこの間の微妙な寸法の時にどうしようか、という話です。
ここで、ようやく本題のスペーサーの登場です。
スペーサーの長さを組み合わせて、2個での対応を考えます。
念のため、パターンを整理してみましょう。
目標長さ | 950 | 960 | 970 | 980 | 990 | 1000 | 1010 | 1020 | 1030 | 1040 |
直管1 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 | 800 |
直管2 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 |
スペーサー1 | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
スペーサー2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 |
ガスケット | 3~6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 6 | 12 | 12 | 12 | 12 |
前後調整 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 3~6 | 3~6 | 3~6 | 3~6 |
調整下限 | 949 | 962 | 972 | 982 | 992 | 1002 | 1015 | 1025 | 1035 | 1045 |
調整上限 | 958 | 968 | 978 | 988 | 998 | 1008 | 1018 | 1028 | 1038 | 1048 |
この結果では例えば、959~961mmの調整ができないことになりますね。
前後ガスケットの調整を含めても、結構状況が厳しいことが分かります。
この場合、ガスケット枚数を無理矢理増やして対応する会社が多いと思います。
ピース数を増やす選択
調整用のピースをもう1つ準備すれば、自由度は相当広がります。
700mm+140mm+100mm+スペーサー
目標長さ | 950 | 960 | 970 | 980 | 990 | 1000 | 1010 | 1020 | 1030 | 1040 |
直管1 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 | 700 |
直管2 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 | 140 |
直管3 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
スペーサー1 | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
スペーサー2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10 | 20 | 30 | 40 |
ガスケット | 6~12 | 9~12 | 9~12 | 9~12 | 9~12 | 9~12 | 12 | 12 | 12 | 12 |
前後調整 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 | 6~12 |
調整下限 | 952 | 965 | 975 | 985 | 995 | 1005 | 1018 | 1028 | 1038 | 1048 |
調整上限 | 964 | 974 | 984 | 994 | 1004 | 1014 | 1024 | 1034 | 1044 | 1054 |
これを選ぶかどうかは、シチュエーションに依存するでしょう。
140mmも100mmもスペーサーも、全てが不確定部分の配管調整のための仮のモノであって、常時設置すべきものではないからです。
使っていくうちに劣化して交換するときに、最低ピース数に置き換えていくべきです。
100mmの調整管を増やすことでガスケット枚数を増やして漏れのリスクを上げるのか、ピース数をその分減らしてガスケットの漏れのリスクを上げるのか。
いずれかの選択になります。
グラスライニング配管の納期が1年など長納期化しているが故の悩みですね。
参考
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最後に
グラスライニング配管の寸法調整のためにスペーサーを使いこなす方法を解説しました。
長納期化しているライニング配管なので、配管図が決まる前に調達するためには、かなりの余裕代を見ておかないといけません。
そのためには配管設計の本質である寸法調整をどこまで設定するか、がポイントになります。
大量の予備品を買っておく方法もありますが、コスト削減のためにも考えておきたい重要ポイントです。
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