化学プラントの機械屋の仕事をして20年。FS(フィージビリティスタディ)もかなり経験しました。この中でも特殊な例として、「現場を見たこともないプラントのFSをして欲しい」という依頼がありました。
略フローや配置図や現場写真はある程度の質なので、絶対に見積が不可能というわけではありませんが、適当に見積しすぎると精度が大きくズレてしまって、依頼者からの信頼感を失いかねません。見積の精度をそれなりに出すためには、「納得感」としての見積根拠を持っておくべきです。
私が気を付けているコツをいくつか紹介しましょう。
建屋の構造
最初に確認すべきは、そのプラントの建屋がどういう構造かという点です。FSはどうしても製造プロセスだけが先走っている段階なので、見積も設備を中心としたものになります。
設備の仕様を細かくチェックして調査したとしても、建屋や工事の金額の精度が上がらないと、見積全体の精度は上がりません。特に建屋は見積全体に占める割合が高いので、チェックしましょう。
- 壁があるのか
- 部屋がいくつあるか
- 操作架台はいくつあるか
- 床の材質は鉄かステンレスか
- 屋根や壁はどこまで簡素化していいか
私が担当するプラントだと、大抵は「壁なし」「設備ごとに架台」「床は鉄」「屋根は折板」というかなり簡素化したものです。
これらの前提が当たり前だと思い込んでしまうと、例えばクリーンルームを見積もろうとしたときには、大きな差が出ます。この場合は、慎重になってFSができないと断ったり、時間が必要だと主張することになるでしょう。逆に高スペックなプラントを担当している人が、簡素的なプラントを見積もろうとしたときも、安価案を提示できなくて困ってしまいます。
FSをするときには、建屋の前提が持っているデータベースと合っているかどうかを最初に確認しましょう。
求められる質が違うというだけであって、どちらが上でどちらが下という話ではありません。
自動化の程度
自動化の程度はある程度は見積金額に影響します。これは建屋よりはやや少なめですが、しっかりと割合を占めています。
- 自動弁のon-off程度の制御か
- コントロール弁の制御が入っているか
- 原料や製品の移動に人が関与するかどうか
簡素的なプラントであれば、DCSなんて入っておらず完全手動という場合もあります。最新の設備が入っていそうな医薬関係でも手動制御が主体という場合は結構あり、制御らしい制御が無かったりします。
自動充填設備のような大型装置が入っていれば、それだけで金額が大きく跳ね上がるので、チェックが必要です(制御という位置づけとは違う気もしますが)。
防爆の有無
化学プラント屋としては防爆は気になるところです。
防爆によってスペックの制限や納期に影響するからです。防爆で見積することを慣れている私からしたら、ついつい防爆前提で見積もってしまいます。
しかし、非防爆で良いという環境は私が経験した範囲内でもそれなりにあります。非防爆だと安くなるはずだからその分のコストカットを含めてほしい、と。
実際に私が経験した範囲内では、「防爆でも非防爆でもFSの精度に影響を与える範囲ではない」と思っています。数億円の見積な中の、1000万円あるかどうかの世界。過剰に考える必要はありません。
非防爆でしか対応できない設備があって、防爆環境下の前提でFSして欲しいという無茶ぶりが来たら困りますが、今回考えている範囲では、この問題はありえないです。もう少しフェーズが進んだときの概略FSで初めて話題になります。それでもエンジニア側が気を使って、防爆かどうかをチェックしておくと「納得感」が得られるという程度の話です。
付帯設備との距離
プラントだけではなく、付帯設備との距離関係はチェックしておきましょう。
- 計器室との距離
- 用役関係との距離
- 原料や廃棄物施設との距離
これらの内容で配管や配線の物量が変わってきます。プラント内の配管が多い場合は誤差範囲になりますが、配管が少ない場合こそ気を付けましょう。製造プロセスを主体に開発されているこの段階では、見落とされやすい内容です。
この段階では、適切な量の把握が課題ではなく、プラント内配管とプラント外配管の物量割合を把握することが大事です。
プラント内の配管本数
プラント内の配管本数はある程度チェックしておきましょう。
上記の「付帯設備との距離」でも述べた通り、プラント内の配管本数の大小が見積に影響をすることはほとんどありません。単に製造プロセスの設計と略フローを見ると、配管本数が目立つというのが実態です。ここを精緻に見て付帯設備の配管を見落としていたので、精度が大きく狂っていたら元も子もありませんよね。
見積に必要な範囲を漏れなくピックアップし、個々の見積はそれなりの精度で算出しておく、というのが見積担当者としては「納得感」が出ます。見てない項目があったというのは、私は結構ショックに感じます。外部の人から見たら、「見るべきものを見てなかった」ことと「見ていたけど甘かった」は同じ意味合いで捉えそうですね。どちらにしても精度を出せない答えのない仕事では、前者の方が問題だと思うのは見積をしている側の考えかも知れません。
特殊設備
特殊設備は最低限のチェックが必要です。これは見積から漏れることは普通ありません。どんなプラントの見積でも、設備が最初に注目されるからです。
ただし、特殊過ぎてこれまで見たことのないものであれば、見積金額を算出するのが難しいことでしょう。サイズ感や材質などから適当に算出せざるを得ません。見積金額が甘くなっても仕方ないと妥協するケースも多いです。
繰り返しになりますが、設備本体の金額精度を詰めても工事の金額の精度が甘ければ、ほとんど意味はありません。設備本体に固執しすぎないようにしましょう。設備本体金額はとにかく目立つので、精度が甘いと、実行段階で疑問に思われるかもしれませんが・・・。
参考
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最後に
担当したこともない全く知らないプラントのFSをする場合に、気を付けることは結構あります。
情報が不足しているからといって、見落としの項目があってはエンジニアのプライドが傷つけられます。納得感のある見積をするためにも、前提条件を疑い情報を集めるようにしましょう。
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