反応器や熱交換器など、ジャケットやシェルを用いた熱交換設備は、購入時には高い熱伝達性能を発揮します。しかし、長年運転を続けると汚れや錆が蓄積し、性能は徐々に劣化します。特にユーティリティ側の配管やシェル内部は、つい洗浄を疎かにしがちです。
本記事では、設備を長持ちさせるための洗浄方法とそのポイントを解説します。
40年以上持たせたい
反応器や熱交換器などジャケット・シェルによる熱交換を行う設備は、定期的な洗浄を行う方が良いです。購入したときには綺麗でしっかりを熱を授受でき、U値が出ている設備でも、30年40年と経っていくと性能は自ずと劣化していきます。プロセス側は比較的短い頻度で清掃してリカバリーしますが、ユーティリティ側は結構雑に考えてしまいがちです。
設備のライフサイクルを考えるときに、寿命を短くしてしまいます(本当なら60年70年と持たせられるかもしれないのに、30年40年で交換しないといけないという意味)。ユーティリティ側の洗浄をすることで、設備を長持ちさせましょう。
分解洗浄
洗浄の基本は人の手作業です。ジャケットやシェルのように設備の内側で、人の手も機械も届かないような場所は、分解することでようやく洗浄できます。普通の機械なら分解組立をするのが基本ですよね。
ところがプロセス系の設備だと、その基本がとても難しい場合があります。溶接で完全にシールしてしまう場合です。
圧力容器などのジャケットや、固定管板式の熱交換器は、一度製作してしまうと分解がとても難しくなります。この閉ざされた空間に、水やスチームなどのユーティリティを流し続けていると、錆などが付着・堆積していきます。
隔壁となる鉄の伝熱性能を悪化させ、流路面積が少なくなってエネルギーロスを増やし、最終的には漏れ・割れという運転停止に繋がります。反応器のジャケットは分解が難しいですが、熱交換器なら誘導頭式にすることで回避できます。
ただし、初期コストは上がり運転時の漏れのリスクが高くなるので、選定には注意しましょう。メンテナンスコストは大事ですが、そこだけを見ずにトータルを見て判断するように・・・。
高圧ジェット洗浄
分解できない設備で、人の手が届かない場所でも機械なら洗浄できる可能性があります。典型例が高圧水によるジェット洗浄です。
水の力で叩き落すので、細かな場所にも届きやすくゴシゴシ手を動かす必要もないので比較的楽です。ジャケット・シェルに関しては、体感的には分解できない設備の方が圧倒的に多いので、むしろこちらの方が基本として考えて良いでしょう。高圧ジェット洗浄の特徴を紹介します。
効果がすぐにわかる
高圧ジェット洗浄のメリットは、効果がすぐにわかるということ。ジェット後の放流水を見ればどれだけ汚れが取れているか分かりますし、機械を止めて中を目視で確認すれば汚れが取れているかどうか分かります。
機械が届く範囲で全体的に洗浄できているか確認できることは、安心感に繋がります。ただし、熱交換器チューブの間など目で見るのが難しい場所は、結局は確認ができません。
危険
高圧ジェット水は危険です。高圧の水が機械から飛び出て設備に当てるという仕組み。機械の操作を少し間違えて、高圧の水が人に当たると簡単に怪我をします。
ジャケットやシェルのような閉鎖空間に高圧ジェット水を使う場合、ノズルから機械を通しますが、ノズル近傍が特に注意が必要です。ノズルから外部に漏れてきた水が危険です。近い部分は威力を弱めたり、手で洗浄したり、いっそのこと何もしないという選択を取りましょう。
薬液洗浄
高圧ジェット水のほかに薬液洗浄という方法があります。最近特に多くなってきたイメージですね。
全体を洗える
薬液洗浄は洗いたい系内全体を洗えます。運転時に水が通る部分は全域カバーできます。人の手や高圧ジェットでも届かないところが洗えるので、洗浄効果が期待できますね。
系統遮断が必要
薬液洗浄をする場合は、系統遮断が重要になります。薬液が別系統に混入した場合、運転・品質など色々な問題が起きえます。高圧ジェット水では水と鉄錆くらいの混入しか起こらないので、リスクは相対的に低いです。
それでも洗浄時は系統遮断をするでしょう。薬液洗浄でも系統遮断を当たり前のように行いますが、意味合いが違う点に注意しましょう。配管フランジを分解したら終わりというわけでなく、ブラインドフランジでしっかり止めるということが重要になります。
高い
薬液洗浄は残念ながら高いです。薬液の費用・処理の費用が乗ってくるからですね。とはいえ、高いから採用しないという後ろ向きな体制は避けた方が良いです。
手洗いや高圧ジェット水より高いのは確かですが、設備を長く使っていくという目では意味があります。洗浄後の伝熱性能の回復効果が良ければ、定期的に採用するだけで、長い間使い続けることが可能となるかも知れません。
洗浄を疎かにして駄目になったら更新するということなく、ランニングコストが下がることも十分に考えられます。10年20年のスパンで考えて、データを取らないと分からないので、保全担当者がしっかりしないと運用は難しいでしょう。
被液
薬液洗浄は被液の可能性があります。使っている薬剤の性質を理解して使いますが、万が一皮膚に触れてしまうと、面倒になります。保護具を付けて運用することになりますが、慎重に扱わないといけませんね。夏だと熱中症のリスクもあります。
参考
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最後に
・ジャケット・シェルの定期的な洗浄は、設備の寿命延長と運転安定性に直結します。
・洗浄方法には分解洗浄・高圧ジェット洗浄・薬液洗浄があり、それぞれのメリット・デメリットを理解して選定することが重要です。
・定期的な洗浄によって、設備更新の頻度を減らし、ランニングコスト削減やプラント競争力向上にもつながります。
メンテナンスコストを下げて、競争力のあるプラントとなるように。
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