電気トレース(electrical trace)について解説します。
プラントの保温目的で使用します。
長年スチームトレースを使っている化学プラントでも、徐々に電気トレースのニーズが高まっています。
電気というと電気エンジニア以外は敬遠しがちで、電気トレースの採用をしていない会社もあるでしょう。
そこで、機械系エンジニア向けに電気トレースの特徴を解説します。
システム構成
電気トレースのシステムから見ていきましょう。
電気トレースそのものは以下の要素で構成されます。
- 電気トレース
- 温度計
- 制御盤
システムとして見ると複雑に見えますが、シンプルに考えると上記の3要素で説明ができます。
- 保温したい温度を常時監視
- 制御盤で保温に必要な電流値を計算
- 必要な電流を供給
プロセス内の温度調整弁と同じことを電気だけで行おうとシステムです。
自己制御
電気トレースを決定づける最大の特徴は自己制御機能です。
電気トレースの場合、制御が上手くいかないと温度がいくらでも上がってしまう危険性があります。
一方でスチームトレースはスチームの飽和温度以上には、絶対に温度が上がりません。
これを解決するために、トレースの材質を良い感じに設計したものが自己制御です。
機械系なら、「温度が上がってくると内部の材質が膨張して導電性が下がる」というイメージだけを持っていれば十分だと思います。
メリット
電気トレースのメリットを紹介しましょう。
スチームトレースとの比較で、化学プラントを前提にしています。
- 省エネ
- 温度調整が簡単
- 閉塞しにくい
省エネ
省エネ(つまりランニングコスト)は電気トレースの最大のメリットと言われています。
ランニングコストだけを考えると、スチームトレースに比べて10倍以上優れているという試算が出回っています。
スチームの消費が多く変動費を抑えたいプラントでは、積極的に電気トレースの検討を進めているでしょう。
温度調整
電気トレースは温度調整がしやすいです。
スチームトレースの場合は圧力だけで決まってしまい、その圧力も減圧弁などの仕組みを付けないといけません。
閉塞
閉塞は電気トレースの場合は基本的には考えられません。
スチームトレースの場合は、スチームドレンが溜まったり配管の錆などで詰まる可能性があります。
保温目的のはずなのに、適切に機能しない可能性があるのはスチームトレースの弱点です。
デメリット
電気トレースはメリットだらけに見えますが、デメリットはあります。
- 施工費が高い
- 制御盤が各所に必要
- 断線する
施工費
電気トレースは施工費を考えると意外と高いです。
ここに着目せず、ランニングコストだけで導入を決心する会社もあるでしょうが、イニシャルコストを重視する会社なら採用見送りという場合も十分にあります。
保温したい設備がどれだけあって、どれだけの期間使うか、という点がポイントですね。
寒冷地ほどメリットが出やすい方向ですけど、限界はあります。
制御盤
電気トレースはその特性上、制御盤を各所に置く(端子を各所に配置する)必要があります。
というのも、トレースの長さは限定されるからです。
例えば1本のトレース長さが100mが限界だとしたら、1kmの配管なら10個の制御盤が必要な計算になります。
ポンプ周りなど配管が複雑な場合は、制御盤の数が増えていきます。
入り組んだ場所であればあるほどスペースを圧迫することになり、プラント内など狭い場所では設置できない場合もあるでしょう。
パイプスタンド上など狭い配管ではこれが障害になる可能性もあります。
端子箱も末端処理もそれなりにスペースを取ります。
断線
電気トレースは断線の可能性があります。
一応の保護装置はありますが、施工に問題がある場合にはなかなか気が付きません。
最悪の場合には火災に繋がります。
スタンド上など高所であれば日常的な監視もしにくいです。(ドローンとか監視カメラで対策!と言いそうですけど)
注意点
電気トレースについては、注意点など知っておいた方が良い情報がいくつかあります。
防爆
電気トレースは防爆の話に興味が行くでしょう。
昔は防爆検定が取得できておらず、化学プラントのエンジニアとしては敬遠していました。
2000年前後に防爆検定を取得する会社が増えてきて、徐々に認知されて行っています。
消防など官庁への説明もしやすくなっているので、防爆については気にする段階ではないという認識は持っておきましょう。(折衝する部門は認識がないかも知れないので)
断熱厚み
電気トレースは断熱厚みと深い関係があります。
例えば、一般に使う断熱材と電気トレース専用の断熱材を比較したとき、電気トレース専用の断熱材の方が厚みが薄いという場合があります。
単位面積当たりの放熱量を変えないという前提で、スチームトレースから電気トレースに変更するような場合です。
これはユーザーとしてはあまりメリットがありません。
断熱厚みを変えるということは、パイプスタンドの高さや付属品の位置が変わっていきます。
それを修正するためには費用が掛かります。
逆に断熱厚みが同じで断熱材を変えるとなると、コストはもっと掛かります。
参考
省エネは現在のエンジニアリングでは非常に重要なテーマの1つです。
電気トレースのような省エネは機会があれば積極的に活用しましょう。
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最後に
省エネ目的での設備保温用の電気トレースの特徴を機械系エンジニア向けに解説しました。
ランニングコストが安く温度制御しやすいというメリットがありますが、イニシャルコストが高かったりスペースを取ったりと悩みがあります。
それでもメリットを十分に感じられる場所に対して適用しましょう。
省エネという言葉だけに惑わされず、適切な評価を心掛けたいですね。
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