設備洗浄(device cleaning)方法について解説します。
設備洗浄については、オーナーエンジニアは意外と知りません。
設備メーカーからユーザーに引き渡す時、ユーザーから設備メーカーに引き渡す時、それぞれの段階で責任をもって洗浄を依頼している立場です。
相手を信じて洗浄したことを前提に対応していますが、トラブルにあうこともあります。
そうなってからでは遅いので、洗浄の方法を知っておくことは意味があります。
設備洗浄(device cleaning)のパラメータ
設備洗浄のパラメータについて解説します。
洗浄は化学工学的には抽出と同じです。
溶質・溶媒・溶解度で議論される世界です。
温度
洗浄では温度が非常に重要なパラメータです。
溶媒の温度が高い方が、溶解度が高く溶質は溶けやすい
設備洗浄の目線でいうと
- 設備内に残っているプロセス液が溶質
- 洗浄液が溶媒
- 洗浄液に対するプロセス液の溶解度
という扱いになります。
溶質と溶媒を固定した状態で、溶解度を上げようとしたときは温度を上げることが基本となります。
お風呂や洗髪などで温水を使うのもこの発想です。
濃度
濃度は洗浄のパラメータとなります。
洗浄液である溶媒の純度が高い方が、溶質は溶媒に溶けます。
設備洗浄では複数回に分けて洗浄をします。
これは純度の高い洗浄液に入れ替えて洗浄効率を上げるためです。
溶媒の純度を変えることは一般に難しいです。
苛性ソーダで洗浄をする場合に濃度をコントロールすることがあるくらいでしょう。
速度
速度も洗浄のパラメータとなります。
撹拌速度を上げたり循環量を上げたりすることで、洗浄効率を高めることが可能です。
撹拌速度はパラメータの設定を変えるのが面倒だからという理由で、プロセス運転時の撹拌速度と同じにしていることが多いでしょう。
循環速度はポンプの能力で決まるから変えることはできません。
パラメータとして速度があるけれでも、変更はしにくいです。
ユーザーの設備洗浄(device cleaning)
ユーザーが設備を行う時の方法を紹介します。
ざっくりこの5段階で洗浄をします。
液抜き
設備洗浄を行うためには、最初に液抜きをしないといけません。
- プロセス液を排水タンクや廃油タンクにフィード
- 配管内に溜まった液は窒素でブロー
- 底に溜まっている液をバケツで回収し、廃油ドラムなどに回収
- タンク内の液を配管・ドラム・ローリーなどの手段で処理設備に運搬
基幹原料で保存安定性の高いものは専用のドラムなどに退避させておき、運転再開後に使用します。
通常発生する排水や廃油は処理方法が決まっていますが、頻度の少ない設備洗浄はイレギュラー的な扱いをすることもあるでしょう。
反応などで失敗したプロセス液の処理は、さらにイレギュラーな処理が必要です。
処理が良く分からないからドラム缶に受けておくということは多いです。
工場内でドラム缶が山積みになっていたら、何かあったのだな?と推測ができますよ。
機電系エンジニアでも、製造部の人が単にバケツなどに液を抜いているシーンを見かけると思いますが、その後にはちゃんと処理があります。
ゴミ捨てと同じで見えない世界ですね。
親水系溶媒①
液抜きが終わったら洗浄に掛かります。
一般には親水系溶媒での洗浄を最初に行います。
これは洗浄対象の設備が有機溶媒を使っているという前提です。
酸・アルカリ系ならこのステップは飛ばします。
有機溶媒は一般に疎水性があり、水とは交じり合いません。
水と油ですね。
- 親水系溶媒を設備内に投入(プロセス液よりも多い液量)
- 撹拌を行う
- 溶媒の温度を上げる
一定時間経過したら液を捨てて、同じ作業を繰り返します。
2~3回が一般的でしょう。
撹拌槽だけが対象ならこの方法で良いですが熱交換器などがある場合は、蒸留を掛けます。
水②
親水系溶媒で油分を除去した後は、水で洗浄を掛けます。
これは親水系溶媒その物をあらうためですね。
油汚れのある食器を例に例えると
- 油がプロセス液
- 洗剤が親水系溶媒
- 掛け洗いの水はそのまま水
という関係にあります。
水での洗浄は親水系溶媒と基本的に同じ操作をします。
スチームを使って水を蒸発させますが、溶媒を蒸発させるのとは動きが違います。
この時にはプロセス液と違う挙動をしますので、スタートアップ・スローダウンの洗浄は要チェックです。
機電系エンジニアとしては、ガスラインの口径を失敗しないようにしましょう。
一般には水の方が有機溶媒よりも蒸発潜熱が高いので、同じスチーム量でも蒸発速度は水の方が低く、ガスラインの口径設計で失敗する確率は低いですけど・・・
スチーミング③
洗浄の1つとしてスチーミングを掛ける場合があります。
これはスチームを直接設備にかける方法です。
水洗浄まで終われば、設備内は基本的に綺麗な状態になっています。
でも装置壁内にはまだ溶媒等が残っているかも知れません。
ここにスチームを当てて炙るという方法を使います。
マンホールを開けて、スチーム配管のホースをマンホール内に投入します。
スチームの温度とスチームの流れという速度を利用した洗浄方法です。
どちらかというと、炊き上げ洗浄ができない大型タンクなどで水洗浄の代わりとして使うでしょう。
手洗い④
水洗浄やスチーミングが終わった後は、手洗いです。
人海戦術です。
装置内に入って人が手で洗います。
洗剤・スポンジ・ホースの水を使う世界です。
かなりアナログですね。
でも手で洗うのが最終的に確実な方法です。
食器やお風呂場も同じですよね。
危険物を取り扱っている閉空間での作業ですので、安全対策が重要。
- 酸欠作業として酸素濃度が担保されていること
- 高所作業として安全帯等の対策をしていること
- プロセス液での被液から身を守るための保護具(防水保護具や手袋・長靴・ゴーグルなど)
- 洗浄後にシャワーを浴びて、被液リスクを緩和
メーカーの設備洗浄(device cleaning)
メーカーの設備洗浄側も同じように確認しましょう。
水②
メーカーでも水洗浄は行います。
とはいえ水洗浄は基本的な洗浄手段ではありません。
水圧試験や撹拌試験の一環として行います。
酸⑤
メーカーでできる洗浄で有名なのは酸洗浄でしょう。
酸洗浄と言っても種類はいくつかあります。
- 溶接のひずみを除去するための酸洗浄
- アルカリ系の汚れを中和するための酸洗浄
酸洗浄というとひずみ除去の方が印象が強いです。
これは設備新作時に出てくるお話ですね。
中和処理としての酸洗浄は、専用のメンテナンス会社をイメージしています。
アルカリ⑥
アルカリ洗浄は中和としての酸洗浄の逆です。
酸の汚れをアルカリ中和する場合です。
酸にしろアルカリにしろ専用の貯槽や設備が必要なので、専用のメンテナンス会社の世界ですね。
手洗い④
メーカーの設備洗浄というと手洗いが基本だと思います。
水を使って洗浄しても水の汚れ自体が設備に付着します。
これを人が丁寧に除去していくには人手が不可欠です。
新品にしろ補修にしろメーカーから納入された設備が綺麗なのは、人の手が掛かっているからです。
当たり前のように見えて、すごい努力が掛かっています。
参考
洗浄とは生産活動の1つの重要な工程です。
機電系エンジニアとしてはいい加減に考えがちですが、工事でも洗浄はとても大事。
一般的な知識は持っておいた方が有利に働きます。
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最後に
化学プラントの設備洗浄について紹介しました。
溶質・溶媒・溶解度の視点と、液抜き・親水系溶媒・水・スチーミング・手洗いについて分けて紹介しています。
メーカーでは最終的な手洗いに多くの努力を掛けています。
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