プラントなどで設備を更新したり新設した後は、その設備の試運転を行って問題ないことを確認したうえで、商業生産に入ります。ここには多くの調整業務が発生していますが、外から見たら気が付かないことばかりです。
本記事では、機器単体試運転に関わる各種調整について解説します。調整がスムーズに進むと立ち上げも楽になるので、ある意味エンジニアの実力ともいえるでしょう。
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日程の調整
機器単体試運転の調整を行うために、最初に日程の調整をします。これが実は結構なハードル。消防検査に合格して工事が完全に終わったタイミングで実施すればいいのですが、検査はいつなのか・工事が完全に終わるのはいつなのか、を工事する前にいったんは決めておかないといけません。
できるだけ早い立ち上げを目指して効率的に試運転を行うためには、工事完了の翌日などシビアに設定します。検査や工事が自分たちの組んだスケジュール通りに完成させられる工場であれば問題ありませんが、工事中のさまざまな問題で予定変更を余儀なくされる工場だときついです。工程変更のあおりを受けて、試運転の日程まで変更せざるを得なくなります。
SVとの日程調整
日程調整とほぼ同義ですが、SV(スーパーバイザー)が必要な場合は、調整難易度が跳ね上がります。SVはメーカーの専門技術者で、専門的な機械を試運転する場合に現地サポートをしてくれる人という理解でいいでしょう(メーカー視点では出荷前に問題なく、工事が終わっても問題ないことを確認して、引き渡し完了という検査目的)。
SVは多くのユーザーの検査に日々出向いていますし、メーカー工場の作業員からSVを派遣している場合もあり、メーカーでもSVの調整は大変だと思います。例えば、今から3か月後にSV派遣してほしいとお願いして対応できる会社は多くはないでしょう。設備の特殊性にもよりますが、1年前から調整という場合もあります。
この制約がある中で、工事や検査の日程を見て機器単体試運転の日にちを決め、SVと調整することはオーナーズエンジニアの職務です。コミュニケーション力が求められます。
検査事項の調整
試運転では各種検査を行いますが、その検査事項の調整も行います。機器が決まっているので、最大ケースで何を検査すればいいかは、事前に把握できます。問題は、そのうちのどこまでを現場で検査して合格とするか。
工事が完了して立ち上げまでの限られた時間で、ほかの設備の立ち上げもあるなか、1つの機器にどこまで時間をかけることができるかを検討します。SVが必要な場合は、そのままSVの派遣日数となるので、コストに直接影響します。
例えば動機器であれば、一般的なものでも以下が選択肢となります。
・回転方向のチェックだけで良しとする
・30分程度回して、電流や騒音など確認する
・4時間程度回して、モーターの温度変化を確認する
・VVVFによる回転数変更が設定どおりに可能か確認する
・設備内に水を張った水運転を実施する
・設備の耐圧気密試験を実施する
これを通常どこまで実施するか、今回はどこまで実施するか、を決めていきます。
担当者の設定調整
担当者は検査項目が決まれば、ほぼ自動で決まるものです。機械・電気・計装など部署のファンクションが設定されている職場であれば、ですが。
検査項目を決めて社内関係者に周知して、各セクションが試運転に向けて準備していきます。各担当者への連絡をしないと、誰も動かないで試運転ができなくなる可能性がでてくるので、調整役は気を使います。
1人が設計と保全とを両方とも行う小規模職場であれば問題なくても、大規模職場になると設計と保全で機能を分けていて、検査そのものをどちらが担当するかケースバイケースで対応していることもあります。SVを呼ぶまでが設計、SVの現場での案内は保全など、役割が分かれていると、常に調整が発生することになってかえって面倒です。
現地指揮
日程と担当を決めたら、いよいよ当日を迎えます。現場で関係者をいったん集めて1日の進め方を整理します。現場で設備を動かしたり止めたりする場合に、SVの意見を聞き、それを実際に動かす製造オペレータに伝えます。各セクションが実施する検査がどのタイミングだといいか、現場の状態を見て指示を出します。
現場指揮を執るだけで半日や1日かかることも珍しくありません。SVが同行している場合には、現場での安全管理や連絡報告係となったり、食事場所や休憩場所への案内などもしたりします。
報告
試運転の状況を製造課に都度報告します。試運転が問題なく製造課に引き渡せる状態にある、ということが製造課が望むこと。試運転が終わったら即立ち上げや水運転を行う場合も多く、製造課はタイムリーに情報を欲しいと思っています。これに答えるのが調整役。
報告書などは別途作成することになりますが、速報をいかに早くするかが大事です。
参考
最後に
機器単体試運転は、単なる確認作業ではなく、多くの調整業務によって成り立っています。日程調整、SVとの折衝、検査範囲の判断、担当者設定、現地指揮、報告まで、すべてがスムーズにつながって初めて、立ち上げは成功します。
これらの調整がうまくいけば、その後の設備立ち上げは驚くほど楽になります。機器単体試運転は、まさにエンジニアの実力が問われる工程と言えるでしょう。
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