化学プラントのエンジニアリングを考える場合、”ユーザーエンジニア”(”オーナーエンジニア”)とプラントエンジニアリング会社の2つが常に比較されます。
ユーザーエンジニア目線でその特徴をまとめてみました。
エンジニアリングを希望する人は一意見として参考になると思います。

化学プラントの”ユーザーエンジニア”は常に存在価値を問われる
化学プラントのユーザーエンジニアは、その存在を常に問われています。
化学会社に直接関係のないエンジニアリング業務を、化学会社として抱える理由
入社して数年のうちは、このことに悩むでしょう。
悩まない人は、そこで終わりです。
ここに疑問を持つ人は、自分の仕事の仕方に疑問を持てる人です。
何も疑問を持たない人は、化学会社から価値がないと判断されると
出向などの待遇を受けます。
化学会社のユーザーエンジニアとプラントエンジニアリング会社のエンジニアの比較を、できる範囲で解説したいと思います。
“ユーザーエンジニア”
プラントエンジ会社がいきなり発生したわけではありません。
まずは、化学会社のエンジニアリング部隊が発生しました。
当時は工作部なんて表現をしていたでしょう。
現場の運転員は、設備を運転している間に設備トラブルに会います。
設備トラブルに対応していくうちに、設備に興味を持って分解整備をする人が出てきます。
こういう人が工作物に移ります。
この傾向は、2020年現在でも多少は存在します。
もしくは、化学工学のエンジニアのうち、機械や制御に興味を持った人が
工作部に移っていきます。
重厚長大な化学プラントの設備を安定的に動かすために、エンジニアリング業務の重要性はどんどん増していきました。
多角的経営
エンジニアリング部隊は自社のエンジニアリング業務に特化していました。
高度経済成長期はこれで良かったのです。
ところが、頭打ちしていきます。
プラント建設の設備投資がどんどん減っていき、エンジニアリングの仕事がなくなっていきます。
大手化学会社のユーザーエンジニアは、自社での仕事が無くなっていくと
他者のエンジニアリング業務を担おうとします。
自社で培ったエンジニアリング技術のノウハウを、他社に展開する
こういう表現を各社で競うように使っていました。
これも、一定年までは成立しました。
日本国内で仕事が無くなると、海外へ仕事を探すようになりました。
人材の流動調整弁
プラントエンジニアリング会社は、ユーザーエンジニアの人材の流動性をあげるための「調整弁」として機能するようになりました。
そうして
- 親会社のグループ会社として存差するプラントエンジニアリング会社
- 親会社から独立したプラントエンジニアリング会社
この2つにきれいに分かれました。
特にグループ会社として存在するプラントエンジニアリング会社は、現在でも調整弁の役割が残っています。
親会社から出向するケースが定番化すると、出世があるレベルで止まってしまいます。
それはグループ会社の従業員に対して、モチベーションを下げる要因になります。
そこに危機感を抱く会社は、自社の努力で人材を確保しようとしていますが…。
優秀な人財を集めるのに苦労しています。
仕事がない
プラントエンジニアリング会社は仕事がどんどんなくなっていきます。
これは、2010年ごろから顕著。
エンジニアリングの仕事経験を積まないまま、一定年数を積んでしまいます。
人材集めに苦労しながら、せっかく集まった人材も育たない。
そんなプラントエンジニアリング会社が増えていっています。
プラントエンジニアリング会社なら経験が多くて安心して任せられる
この認識が徐々に薄れていっています。
勤務地は会社人生で大事
勤務地は会社人生で非常に大事な要素です。
ところが就職活動ではなぜか軽視されがちです。
というのも、配属先で勤務地が変わってしまう可能性が高いから。
サラリーマンの悲しい性です。
1日8時間の勤務以外の時間は、その勤務地の近くで住んで生活をすることになります。
その場所が自分に合っているかどうか、は人生の豊かさに関係します。
化学プラントの”ユーザーエンジニア”
化学プラントのユーザーエンジニアの勤務地を紹介します。
これは簡単ですね。
化学プラントがある場所で転勤ベースで勤務します。
日本の化学会社では、保有している工場は多くても10程度。
勤務地はある程度は推測できます。
派閥や会社の運営方針のような要素で、絞り込みがさらにできる場合もあるでしょう。
日本の場合は、転勤があると言っても短くても2~3年に1回、長ければ5年以上異動しない。
自分の生活基盤を安定化させるには、ややマシでしょう。
本当は10年単位で、その場所に居たいと思う人の方が多いでしょうけど…。
まともな会社なら内示は1か月程度前なので、勤務地を変更する場合は少しは余裕があります。
これも1か月では足りなくて、もっと前もって知りたいと思うのが人情ですが…。
プラントエンジニアリング会社のエンジニア
プラントエンジニアリング会社のエンジニアの勤務地を紹介します。
数年に1回ペースでどこでも異動します
プラントエンジニアリング会社のエンジニアは、勤務地が安定しません。
自社で勤務地を固定できず、発注者であるユーザーの工場で勤務するからです。
1つの会社なら、工場は10程度なので勤務地を絞り込みできますが、
プラントエンジニアリング会社のエンジニアは、日本全国ほぼすべてが勤務地候補になります。
日本だけでなく、世界どこでも異動する可能性はあります。
推定することはかなり難しいです。
仕事を渡り歩いていきます。
こう書くと格好良く見えますよね^^
1つの仕事が2~3年で片付いたとして、すぐに次の仕事場に向かいます。
プラントエンジニアリング会社のエンジニアの勤務地変更は結構シビアです。
小さな会社では「今日の午後から」「明日から」異動して、というパターンがあります。
これは異動というよりは、「長期出張」のケースですけど。
年収比較
化学プラントのユーザーエンジニアとプラントエンジニアリング会社のエンジニアの年収を比較しましょう。
それぞれ大手3社だけの簡単な比較です。
会社 | 年収(万円) |
日揮 | 864 |
千代田化工建設 | 847 |
東洋エンジニアリング | 717 |
三菱ケミカル | 1,166 |
住友化学 | 890 |
三井化学 | 848 |
どの会社も高いですね^^
少し掘り下げてみましょう。
化学プラントの”ユーザーエンジニア”
化学プラントのユーザーエンジニアの給料は、化学会社本体の給料とほぼ同じです。
化学プラントの製造部や研究者は特別な手当てが出る場合もあるでしょう。
それでも大勢には影響がない範囲です。
事務系の職種と同じように、化学会社の高給に引きずられて、高い給料です。
若いうちは時給は高くない
若いうちは現場仕事が多く、残業も多いので、時給換算すると決して高くはありません。
これはどこの会社でも似ているでしょう。
- 入社してから学ぶ知識が多い
- 1つの仕事サイクルを回すのに1年以上の時間がかかる
- 経験やノウハウで止まっている情報が多い
この結果、若いうちは苦労します。
30代後半からはお得感
化学会社は30代後半からお得感が出ると、よく言われます。
- 若い時より給料は高い
- 現場仕事は減っていく
- 自分で即決即断できる
この領域まで行くと、「時給」や「「仕事の質に対する給料」としてはかなりいい線になります。
プラントエンジニアリング会社のエンジニア
プラントエンジニアリング会社のエンジニアの給料は、自分たちのエンジニアリング業務が中心になります。
化学プラントの製造部に対する、プラントエンジニアリング会社のエンジニア、という位置づけ。
エンジニア自体に手当てを付けている会社も多いでしょう。
海外勤務がハード
プラントエンジニアリング会社のエンジニアは、海外勤務が多いです。
その分、手当は増えていくでしょう。
勤務先は発展途上国が多く、お金を浪費する可能性が低いので、どんどん溜まっていきます。
でも海外勤務は海外勤務。
高いプレッシャー・少ない休日・困難なコミュニケーション・不慣れな事業環境に対して、何とかやりくりしながら、プロジェクトを進めていきます。
ユーザーエンジニアの場合は海外出向として手厚い待遇を受けやすいですが、プラントエンジの場合はかなり厳しいと聞きます。
体を張って給料を稼ぐ。
こういう表現が最適だと思います。
ベテランでも現場仕事
プラントエンジニアリング会社は、ベテランでも現場仕事をしているイメージです。
これは個人的な感想です。
プラントエンジニアリング会社の人を見てみると、ベテランの現場責任者があまりにも多すぎます。
化学会社なら40歳そこそこで、現場の第一線から手を引くのに。
プラントエンジニアリング会社では50歳になっても、現場という人も珍しくありません。
異動も含めてフットワーク軽く動きまわるのがプラントエンジニアリング会社のイメージなので、
50歳でも現場を動き回るのが苦にならない人が多いのでしょう。
私のように、化学会社で一つの場所にどっしり腰を据えて取り組んだ人には、想像しにくい世界です。
現場仕事が多いわりに、給料は頭打ちします。
コストパフォーマンス面で、化学会社側が勝ってきます。
育成
プラントエンジニアリングの仕事は育成が難しいです。
- 数年で1サイクル
- 規格がバラバラ
- 思想がバラバラ
- 明文化された資料が少ない
- 勘と経験の世界が残っている
いろいろな要素がありますが、同じ化学会社の他部門と比較してもエンジニアリング関係の社員の成長速度は遅めです。
外部プラントエンジニアからみたらオーナーエンジニアは業務スキルが低いと言われるでしょう。
これは社内で置かれた環境や学歴とも関係があります。
それでも本人の努力不足の面の方が強いですけどね。
化学プラントの”ユーザーエンジニア”
化学プラントのユーザーエンジニアの育成パターンは、昔から固定されています。
- 一人当たりの仕事量がほぼ固定
- 大きなプロジェクトを担当する確率は高くはない
- 自分の裁量で判断できる部分が広い
- 似たような仕事が多く、過去の経験を活かしやすい
- 基準がある程度整備されている
同じ工場内での同じで仕事であれば、数回のサイクルを回すと一人前。
一通りの仕事をこなせるようになります。
この仕組みがあるだけでも、化学プラントのユーザーエンジニアの方が恵まれていると思います。
数回のサイクルなので、1サイクル平均2年としても5~6年で一人前。
私自身や同僚も見ても、傾向は同じです。
プラントエンジ会社のエンジニア
プラントエンジ会社のエンジニアリングは、化学プラントのユーザーエンジニアよりも条件が厳しいです。
案件ごとに前提が違う
プラントエンジ会社のエンジニアリングでは、いろいろなユーザーの仕事を「摘まみ食い」的に仕事をします。
その工場の設備構成や思想は、ユーザーエンジニアが5~6年掛けて、やっとある程度の全貌が見えるものです。
外部エンジニアリング会社の人間は、その仕事でしかユーザーと接しません。
1~2年の世界です。
それで、ユーザー工場の全貌を理解することはできません。
何となくこういう思想のプラントなのだろうという知見が少しずつ蓄積されていくだけです。
例えば、化学の連続プロセスを主に扱う仕事をしたと思えば、
次はインフラ関係の仕事に急に移ったり、
日本と海外を行き来したり、
案件ごとに、プロジェクトの前提条件が目まぐるしく変わります。
プラントエンジニアリングとしての体系だった知識を得るのは、ほぼ不可能でしょう。
一応、特定の分野に特化した人を育てていって、マネージャークラスになると、色々な案件を担当する
という思想ではあるようですが。
この辺は、化学プラントのユーザーエンジニアも状況は似たようなものです。
案件ごとに担当者が違う
プラントエンジニアリング会社の仕事は、案件ごとに担当者が違います。
当然ですよね。
ユーザーが毎回違うのですから。
A会社の人はスピード重視、B会社は実績重視…
会社や担当者によって思想が全然違うでしょう。
これも前提条件に近い話ですが^^
- 良く言えば。幅広い人と接することができる。
- 悪く言えば、担当者に振り回される。
いかがでしょうか。
経験者が少ない
プラントエンジニアリング会社だけで長年仕事をしても、一般化されたスキルの養成は難しいと思います。
昔はそれでも機能していたのは、親会社からの出向者がいたから。
親会社のユーザーエンジニアである程度の体系を習得したエンジニアが、
第一線で引っ張っていったから、プラントエンジニアリング会社は機能していました。
今?
もう定年して引退していますよね^^
彼らが、後任者に技術伝承できていませんよ。
人が集まらない
プラントエンジニアリング会社に就職希望する人は、実はそんなに多くはありません。
それはそうですよね。
同じエンジニアリングなら、ITの方がよっぽど良いでしょう。
優秀かどうかはともかく、人そのものが集まらないのがプラントエンジニアリング会社。
相当苦労されているようです。
プラントエンジニアリングの経験がない人が、
体系だったスキルを学べないプラントエンジニアリング会社で長年経験している。
そういう集団がチームとして機能するのかどうか。
結構疑問です。
最後に
化学プラントのユーザーエンジニアとプラントエンジニアリング会社の比較をまとめました。
経緯・勤務地・給料・育成の面で比較しています。
ざっくり保守的な人はユーザーエンジニア、いろいろな経験をしたい場合はプラントエンジニアリング会社に進むと満足する確率が高いでしょう。
この記事が皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
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