化学プラントの機電系エンジニアを長年やっていると”情報分断“にモヤモヤを感じることがあります。
これは機電系エンジニアに限定されるわけではありませんが、機電系エンジニアはユーザー内でも特に情報が遮断されている傾向が強いです。
そこにはいろいろな背景があるわけですが。
機電系エンジニアと情報という視点で考えをまとめてみました。

オーナーエンジニアを長くやっていると機電系エンジニアが判断できる要素が少なくて、専門性がないように感じることもあります。ここには情報の分断が非常に深く関係していると考えます。個人の専門的知識の大小に固執していると気が付かないかもしれません。周囲から情報を得て・自分で付加価値を加えて・外にアピールする。この重要性に気が付かず受け身の仕事ばかりでも仕事をしている感はでますが、リーダーとなって仕事を進める訓練はできないでしょう。
情報伝達としてのコミュニケーション
経営層・部長・課長・主任・担当という職務上の立場とそこで得られる情報量には明確な違いがあります。
経営層側は会社の経営情報が集約し、担当には現場の情報が集約します。
経営情報は経営層を出発点として、部長→課長と必要な情報を取捨選択して下ろしていきます。
現場の情報は担当者を起点として、主任→課長と報告連絡相談などの形として情報があがります。
この立場を越えた情報の伝達は実は相当難しいです。
特に下から上に上げる情報については、何をどこまで伝えれば良いのか分からないことが普通です。
というのも上の人は下の立場を経験しているけど、下の人は上の立場を経験していないから。
コミュニケーション力というほどスキル的な要素のある情報伝達。
情報の量や質は仕事の成果に直接影響を与える超重要な要素です。
機電系エンジニアの視点で解説しましょう。
機電系エンジニアに降りてくる情報
機電系エンジニアに降りてくる情報から見ていきましょう。
仕事の依頼
これは機電系エンジニアとしては仕事の依頼という形で降りてくるでしょう。
- 設備の故障対応
- 設備投資見積依頼
- 建設設計
仕事の依頼という意味で情報としては非常に分かりやすいです。
設備の故障なら、「いつ」「何の設備が」「どんな状態になり」「いつまでに復旧するか」というような5W1Hの情報がかなり明確に入手できます。
設計投資見積や建設設計段階でも「P&ID」「配置」などの情報がほぼ決まっています。
ここまで来れば選択肢は限定的であり、エンジニアの仕事はほぼ作業と化すでしょう。
そうなんです。
エンジニアの仕事の大半は、ユーザーから見ると作業と思われています。
まぁそれはその通りで・・・。
設備の故障はいつ起こるか分からないから、故障に振り回される特徴があるのが機電系エンジニア。
できるだけ振り回されないようにするためにも、日常保全・専門保全があります。
設備が健全でも運転のトラブルに振り回される製造部管理者に比べれば、機電系エンジニアの振り回しなんて・・・。
経営情報
機電系エンジニアには経営情報は実はほとんど降りてきません
社外に公表する情報は当然入手できますが、自身が担当しているプラントの経営に関する情報など全く手に入らないでしょう。
毎月の生産予定量・生産実績・今後の生産予定
何1つ入手されません。
生産トラブルの情報すらあまり降りてこないでしょう。
どこの組織でも似たようなものとはいえ、もう少し広い情報が欲しいと思う機電系エンジニアは多いでしょう。
組織情報
機電系エンジニアは自分の組織の情報すら降りてこない傾向があります。
- 自社の組織が現在どんな問題があるか
- 今後どんな方向に組織を進めていくのか
目の前の仕事にだけ注力していればよく、組織全体のことなど考えなくていい。
こんな風潮が機電系エンジニアには多いでしょう。
一匹狼の機電系エンジニアの修正が上から下まで蔓延する形です。
言語化が苦手なエンジニアが多いので、コミュニケーションがそもそも取りにくいというどうしようもない現実ですね。
基準情報
社内の他部署の基準が改訂されたとき、その情報が共有されます。
でもこの基準内容をタイムリーに見る人なんて普通はいません。
基準を見るだけで時間が掛かりますからね。
そもそも自部署の基準すらまともに把握できないのに、他部署の情報なんて・・・。
情報の取捨選択を迫られる現在では、真っ先にカットされるべき情報です。
機電系エンジニアが下ろす情報
機電系エンジニアが下ろす情報とは、仕事の依頼という形となります。
- 設備メーカーへの設備製作依頼
- 図面屋さんへの図面作成依頼
- 施工会社への補修や工事依頼
いずれも図面や仕様書などの紙での依頼が基本です。
補足する形で現場で指を指しながら指示語を使った説明をします。
これで言語化を鍛えるという方が無理がありますね。
機電系エンジニアに上がってくる情報
機電系エンジニアに上がってくる情報は、機電系エンジニアが下ろした情報の結果となるでしょう。
書類を見てください、で終わる系ばかり。
言語化されていない情報ばかりです。
1度みるだけなら負荷は掛かりませんが、機器図面や配管図面は膨大な枚数になるのでチェックが相当大変です。
言語化された一般情報があれば助かるのに、そんなことができないのがメーカー・図面屋・施工会社の特徴です。
彼らはこちらの都合はお構いなしに、突然訪問したり突然電話をして要件を伝えてきます。
- 会社の中の時間はすべて会社に捧げるもので、自分の思い通りにならなくてもお互い様。
- 相手のことを考えずに要件をズバズバ伝えるのが普通。
- メールより電話。電話より対面の方が確実。
こんな昔ながらの間隔をいつまでも引きずっている環境にあります。
機電系エンジニアとしてはこういう背景で振り回されることが多いです。
オンラインミーティングやWeb学習などパソコンを使って仕事をする機会が増えているにもかかわらず、考え方はなかなか変わりませんね。
というより、相手のことを考える余裕がないという方が正しそうです。
機電系エンジニアが上げる情報
機電系エンジニアが上げる情報にはいくつかのパターンがあります。
- 設備図面の承認依頼
- 工事図面の承認依頼
- 仕様書・見積書
- トラブル報告
設備図面や工事図面の承認依頼は図面をそのまま提出するだけ。
ここでも機電系エンジニアは一般化された言語化情報を付与しません。
言語化能力を鍛えれるわけがない。
仕様書・見積書も紙の情報だけで基本的に成立します。
トラブル報告は設備故障の依頼を受けた時に行うもの。
現場の情報を上に上げるという意味で、設備保全エンジニアの大事な報告内容です。
タイムリーに報告するべきことなので、口頭での報告が必須。
でも言語化能力を育てる機会が少ない機電系エンジニアにとってトラブル報告は非常に難しいです。
現場に行って実物を見た方が、現場の話を聞いた方が速いと思うくらい、もどかしい気持ちになります。
経験の少ないエンジニアは先読みをする風潮が弱いため、情報の上げ方も非常に弱いです。
上司がフォローすることになりますが先読み能力を鍛えるには、それなりの痛い目を見る必要があるでしょう。
そうしないと学習しません。
機電系エンジニア同士で共有する情報
最後に機電系エンジニア同士で共有すべき情報を紹介します。
この共有、実は機電系エンジニアの最大の課題です。
例えば以下の情報が共有されるべきです。
- 設備メーカーの納期・費用実績
- 設備投資案件の集約
- 工事案件の集約
- 工事会社の見積実績
- 工事会社の評価
- 工事内容の説明
機電系エンジニアというと一匹狼の性質が強く、基準が標準化されていないと独断で進めがちです。
保全の業務処理手順なら基準化できますが、設計手順の標準化はかなり難しいです。
人に依存する仕事ですね。
でもエンジニア同士で設計情報を共有すること自体は可能なはずなのに、それをしようとしません。
報告書の類を書くことに慣れておらず、作る時間がなく、作っても見る時間が無い。
情報を集約しても情報量が多すぎて正確に把握できる人がいません。
設備メーカーの情報などは上手く活用すれば、業務時間短縮や合理的な設備導入ができるなどのいろいろなメリットがありますが、忙しいの一言でキャンセルされがちです。
現地説明会という内容でエンジニア同士で認識統一をすることもありますが、これも上手くいかないことの方が多いです。
機械・電気・計装・土建の各部門が密接に関わる部分が多くは無いからです。
全員を集めてまとめて説明会を開いたとしても、大多数の配管工事のために他業種が強制的に参加させられる形になり、関係ない話が展開している間は雑談をしています。
情報共有をしようにも、人と量がバラバラで難しいという背景。
だからこそ最低限の情報共有だけで仕事をしようとします。
その結果、他部署のことを知る機会が少なくなり、全体を見るという思考がますます無くなっていきます。
最後に
化学プラントの機電系エンジニアと情報の分断について解説しました。
上から降りてくる情報が仕事の依頼だけであり社内の情報がほとんど入ってこず、言語化された情報ではありません。
下から上がる情報は紙の資料ばかりで言語化情報はありません。
これで言語化能力を鍛えようと思う方が無理がありますね。
トラブル報告が適切にできないエンジニアばかりなのは、こういう背景があります。
この記事が皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
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